【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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161 ◇◇聞かれたことだけ答えた日

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「突然すみません。警察の者です。松島誠さんの携帯電話でお間違えないでしょうか。はい、ありがとうございます。いえ、息子さんのことではなく、はい。少し、お尋ねしたいことがございまして。はい。実は、息子さんの借りている部屋の前で、うるさくいつまでも呼び鈴を鳴らしたり、ドアを叩いている者がいる、と通報があり、少年を一人保護しました。高校生くらいの少年なんですが、少年は、部屋の住人に用があって遠くから訪ねてきた、住人の弟なのだ、と言っています。え? あ、はい。息子さんは末子。はい、そうですか。すみません。いえね、少年が名乗った苗字が違うので、彼の勘違いだろうと言ったのですが。ええ、はい。息子さんに確認しようにも、息子さんが帰宅されなくてね。隣の部屋の住人に聞いたところ、息子さんはしばらくお部屋に戻られないと聞いている、とのことで、ええ、はい。不動産屋の緊急連絡先に指定されているこちらの番号に電話をお掛けした、とこういう次第です」

 そんな知らせが誠の携帯電話に届いたのは、晃と一太が施設実習に出ている時だった。施設実習は、十日間施設に泊まりがけで過ごす。休憩時間や、一日挟まる休日に外出するなどは可能だが、夜は必ず施設で寝泊まりしなければならない。夜勤もある、大変な職場での実習中だ。児童養護施設で、親のように、けれど先生として、様々な年齢の子どもたちの衣食住の世話をして過ごさなければならないのだと聞いている。
 だから、晃と一太は部屋に戻っては来ない。
 誠は、家族共有カレンダーのアプリを開いて予定を確認した。晃と一太の施設実習は半分を過ぎたところだ。色分けしてある二人の予定が、仲良く重なっている。同じ施設に一緒に行ったのだろう。晃は、実習も一太と一緒にしたいがために、ちっとも実家には帰ってこないのだから。

「息子は、泊まりがけの施設実習に出かけております。あと五日は帰ってきませんし、連絡もなかなか取れないと思います」

 誠は、カレンダーで確認した予定を、電話口の警察官に伝えた。
 通報してくれた隣の部屋の住人というのは、以前も、一太の弟が訪ねて来た時に物音を聞いていて証言してくれた大学生だろう。長く留守にする予定を、晃と一太は知らせておいたようである。良い隣人に恵まれて、とても住みやすい部屋だったのだが……。誠は、ため息を吐いた。あの一太の弟が一人でもたどり着いてしまったのなら、いよいよ本気で、引っ越し先を探さねばならない。
 
「そうですか。すみません。いえ、お父さんに確認が取れたら充分です。はい、はい。少年はこちらで対処致します。はい、お手数をお掛けしました」

 もう一人住人がいる、と隣の大学生は言わなかったのだろう。誠も、余計なことは言わなかった。以前に世話になった警察官とは別の者だったらしく、電話はあっさりと切れた。
 とりあえず、二人が留守の間の出来事で良かった、と誠は息を吐く。
 開いた共有カレンダーの今月の最後の日。一太の誕生日、と一太の選んだ赤色で染められている日にちを見ながら、仕事が終わったら早急に引っ越し先を探そう、と誠は思った。
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