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162 ◇部屋は二つなくていい
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『引っ越し後も、二人で暮らすんだな?』
晃は父からのメールに、もちろん、と一言返す。
『少し築年数が古くて和室二部屋なんだが、この2DKの物件などはどうだろう?』
間取りや詳しい情報の書いてある紙を写した写真が、すぽん、と送られてくる。
今住んでいる辺りと、大学を挟んで反対側のエリアの物件だった。大学までの距離は今までと変わらず、通いやすそうだ。アルバイト先のスーパーまでは少し遠くなるが、大した事はない。
うーん、と晃はその間取りを眺める。
これだと、食事時間以外はそれぞれの部屋で過ごすことにならないか? 姿が完全に見えないのは嫌だな。できれば今みたいに、それぞれの存在を感じながら、くっついたり離れたりしたい。
『二部屋なくてもいい。居間が欲しい』
『二部屋ないと、それぞれの部屋がないぞ』
『寝る部屋と居間があればいいよ。ベッドもいらない。布団二つ敷いて寝る』
『一太くんにも希望を聞いてくれ。一太くんは自分の部屋が欲しいかもしれないだろう?』
晃は、携帯電話から顔を上げて一太を見た。
児童養護施設での施設実習を終えて、十日ぶりに部屋に戻ってきたところだ。一太は、空っぽの冷蔵庫に買ってきた食材を詰め込み、やかんでお茶を沸かし、洗濯機を回してと忙しく動き回っている。
『今、帰ってきたばかりで忙しい。また後でいっちゃんに聞いて連絡する』
『分かった。お疲れ様。他にも二件ほど候補を送っておく。風呂とトイレは別の方がいいよな? 洗濯機の置き場所がベランダという物件は、どう思う?』
『風呂とトイレは別がいいけど、洗濯機はどうなんだろ。母さんにも聞いてみて。とりあえず、後で』
後で、と晃が何度もメールしているにも関わらず、誠からのメッセージはどんどん送られてくる。また二件、間取りと情報の載った写真が届いた。
忙しくて、なるべく早く引っ越した方がいいかもしれない、と三月に話したことをすっかり忘れていた晃は、父の、突然の怒涛の提案についていけていない。就職先を決めてから、職場に通いやすい場所に住むことにするのもいいと思うんだが、駄目なのだろうか。
「いっちゃん。疲れたらちゃんと休んでよ?」
「うん」
とりあえず晃は、なかなか腰を落ち着けようとしない一太に声をかけた。やはり、別々の部屋に落ち着き場所を作って姿が見えなくなってしまうのは困る。動きすぎる一太を止めることができないし、全ての家事を、晃の見えない間に一太がやってしまうかもしれない。なにより、寂しい。
手伝う気は大いにある晃がこうして座って見守っているのは、下手に手を貸そうとすると一太の仕事を増やしてしまうという事が、この数ヶ月で分かったからだ。晃は、こういう時は手を出さない方がいいことを学習した。何か手伝うことはある? と聞くと一太の手を止めてしまう。かといって、自分でできることややらなければならないことを一太より先に思いつく訳でもないので、あ、あれならできる、と思った時には作業は終わってしまっている。
晃の役目は、一太のストッパー。今はそれでいい。そして、それならやっぱり部屋は分けてはいけないと思う。
ずるいかもしれないけれど、と思いながら、一太の意見は聞かずに父にメッセージを送る。
『寝る部屋一つと居間とキッチンがあればいい』
それから、以前、一太が言っていた言葉を思い出して付け足した。
『コンロは二つあると嬉しい』
晃は父からのメールに、もちろん、と一言返す。
『少し築年数が古くて和室二部屋なんだが、この2DKの物件などはどうだろう?』
間取りや詳しい情報の書いてある紙を写した写真が、すぽん、と送られてくる。
今住んでいる辺りと、大学を挟んで反対側のエリアの物件だった。大学までの距離は今までと変わらず、通いやすそうだ。アルバイト先のスーパーまでは少し遠くなるが、大した事はない。
うーん、と晃はその間取りを眺める。
これだと、食事時間以外はそれぞれの部屋で過ごすことにならないか? 姿が完全に見えないのは嫌だな。できれば今みたいに、それぞれの存在を感じながら、くっついたり離れたりしたい。
『二部屋なくてもいい。居間が欲しい』
『二部屋ないと、それぞれの部屋がないぞ』
『寝る部屋と居間があればいいよ。ベッドもいらない。布団二つ敷いて寝る』
『一太くんにも希望を聞いてくれ。一太くんは自分の部屋が欲しいかもしれないだろう?』
晃は、携帯電話から顔を上げて一太を見た。
児童養護施設での施設実習を終えて、十日ぶりに部屋に戻ってきたところだ。一太は、空っぽの冷蔵庫に買ってきた食材を詰め込み、やかんでお茶を沸かし、洗濯機を回してと忙しく動き回っている。
『今、帰ってきたばかりで忙しい。また後でいっちゃんに聞いて連絡する』
『分かった。お疲れ様。他にも二件ほど候補を送っておく。風呂とトイレは別の方がいいよな? 洗濯機の置き場所がベランダという物件は、どう思う?』
『風呂とトイレは別がいいけど、洗濯機はどうなんだろ。母さんにも聞いてみて。とりあえず、後で』
後で、と晃が何度もメールしているにも関わらず、誠からのメッセージはどんどん送られてくる。また二件、間取りと情報の載った写真が届いた。
忙しくて、なるべく早く引っ越した方がいいかもしれない、と三月に話したことをすっかり忘れていた晃は、父の、突然の怒涛の提案についていけていない。就職先を決めてから、職場に通いやすい場所に住むことにするのもいいと思うんだが、駄目なのだろうか。
「いっちゃん。疲れたらちゃんと休んでよ?」
「うん」
とりあえず晃は、なかなか腰を落ち着けようとしない一太に声をかけた。やはり、別々の部屋に落ち着き場所を作って姿が見えなくなってしまうのは困る。動きすぎる一太を止めることができないし、全ての家事を、晃の見えない間に一太がやってしまうかもしれない。なにより、寂しい。
手伝う気は大いにある晃がこうして座って見守っているのは、下手に手を貸そうとすると一太の仕事を増やしてしまうという事が、この数ヶ月で分かったからだ。晃は、こういう時は手を出さない方がいいことを学習した。何か手伝うことはある? と聞くと一太の手を止めてしまう。かといって、自分でできることややらなければならないことを一太より先に思いつく訳でもないので、あ、あれならできる、と思った時には作業は終わってしまっている。
晃の役目は、一太のストッパー。今はそれでいい。そして、それならやっぱり部屋は分けてはいけないと思う。
ずるいかもしれないけれど、と思いながら、一太の意見は聞かずに父にメッセージを送る。
『寝る部屋一つと居間とキッチンがあればいい』
それから、以前、一太が言っていた言葉を思い出して付け足した。
『コンロは二つあると嬉しい』
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