【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ

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163 親切なお隣さんの話

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 「おはようございます」

 泊まり十日間の実習を終えた翌日、一太が朝の仕事に行こうと部屋を出たら、お隣さんに出会った。一太は反射的に挨拶をして、頭を下げる。

「あ、おはようございます。あの、大丈夫でしたか?」
「え?」

 土曜の朝。大学は基本的に休みだから、しっかり身支度を整えて出てきたということは、きっと一太と同じでアルバイトにでも行くのだろう。それとも、土曜も大学で勉強だろうか。真面目そうなお隣さんとは、生活のリズムも同じでとても付き合いやすい。ゴミ袋を手にして、捨ててから行くつもりなのだろう所も同じように生活している感じがして、ほっとした。まあ、十日間留守だった一太たちは今日は出すようなゴミが無く、手ぶらなのだが。
 そういえば、のぞむが急に訪ねてきて殴られた時にも、お隣さんが証言したりして助けてくれたんだったな、なんて一太が思ったのは何かの予兆だったのか。

「あの。一週間ほど前……だったかな。また、あの、乱暴な男の子が来てて」
「え……?」
「聞いてない……ですか?」
「はい……」

 体が、知らずかたかたと震え出す。

「騒いでいたから警察に通報して来てもらったんですが、その後のことは知らなくて。連絡が無かったのなら、特別何も無かったのかな? その後は見かけていないし」

 お隣さんは、にこりと笑う。

「あ、あ。え、と、その。ご、ご迷惑を……」
「何とも無かったなら良かったです。では」

 一太が頭を下げると、お隣さんは手を振って行ってしまった。

「あ、はっ。はっ」
 
 一太は、酷い動悸に襲われてうつむいたまま胸を押さえた。
 のぞむが、また来た。のぞむが……。
 怖い。嫌だ。怖い。
 必死で深呼吸して、目をつぶる。
 大丈夫。今ここにいない。大丈夫。
 でも、また来るかもしれない。二回も来たんだ。また……。
 大丈夫。一週間前。もう来ていない。大丈夫。
 そんな事を繰り返しているうちに、くらりと目眩がして立っていられなくなる。慌てて、出たばかりだった部屋の扉に、どん、と体をもたれさせた。

「え? なに?」

 狭い部屋だ。どこに居ても、その音は聞こえたのだろう。晃が扉をあけようとして、扉前の一太に引っかかって開けられず焦っている。

「あ、あ。ごめん」

 一太は慌てて避けて、バランスを崩して地面に座り込んだ。

「いっちゃん? どうした?」
「何でもな……」

 言いかけて、晃の顔を見上げる。何でもなくは無い。すぐに立ち上がれもしないくせにそんな事を言えば、それはただの嘘つきだ。

「あ、うん。ううん。何でもなくない。……のぞむが。のぞむが来たって、お隣さんが」

 晃が息を呑む音が聞こえて、一太は、ただただ晃とお隣さんに対して申し訳なく思った。
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