【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百八

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  *

「早馬が?」
「はい」
「すぐに通せ」
「はっ」

 早馬の報せはいつも不穏である。伊良は良時の隣で身を固くした。城の中。すでに二人で、寝所でくつろいでいる時刻であった。
 時行が正式に家督を継いで五年。良時は、将軍様の元と領地を行き来する時行の補佐として、時行が不在の間の領地を立派に治めていた。もちろん、伊良とは正式に結ばれ、共に城住まいとなっている。

「失礼いたします」

 戸の向こうからの声はすぐだった。近くに控えさせていたのだろう。それだけ、緊急の報せか。伊良は急いで立ち上がり、戸をそっと開けた。
 まだ息も整わぬ様子の兵士が膝をついて頭を下げ、胸元から文を取り出した。伊良が受け取り、座して待つ良時へと差し出す。ばさりと文を開いた良時の側へ部屋の隅にあった行燈を近づけると、文の覗けぬ位置に控えた。伊良には見えて構わぬ、と良時は常々言ってくれているのだが、伊良は厳格に臣下としての分を弁えている。万事控え目な伊良の存在は、徐々に、良時の隣にあって当たり前と受け入れられていた。
 二人で過ごす時に他の者がいることを良時も伊良も好まぬ為、伊良は良時の小姓の役割も担うことが多い。それが、二人にとって楽な過ごし方であったし、伊良は良時の世話を焼けて嬉しかった。
 出自が卑しいものは人の使い方も知らぬ、などという陰口を叩いていた者もいたが、その者らはいつの間にか、城で姿を見なくなっていた。 

「……良隆よしたか
「はい」

 早馬を案内してきたのは、元小姓の吉之助きちのすけ改め良隆である。良時は、元服の祝いにと吉之助に良の字を与え、側仕えとした。側仕えをするには身分が足らぬという声に、私も大した身分ではないから丁度良かろう? と良時が答えたのは語り草となっている。余四郎という名であった良時のことを余りの若君だと馬鹿にしてきた者たちは、返す言葉を持たなかった。
 その後、良時は大手を振って、身分を気にせず信頼できる優秀な者を側に置きはじめ、ますます活躍していた。勉学や剣術など、自分の得意を磨けば身分に関係なく良時の元で働くことができる、との話は瞬く間に藩校に広がり、皆のやる気にも繋がっていた。
 良時さまに謀反の恐れあり、という声は、藩主、時行が、流石は良時だ、と笑って褒めたことで、消えざるを得なかった。
 良隆は、本日は昼に姿を見なかったから夜番だったのであろう。今は交代の人手がいるから、昔のようにずっと詰めているような無茶はしていないはずだ。

「城住まいのうちの者を皆起こして連れてきてくれるか?」
「はっ」
「え……?」

 すぐに立ち上がった良隆が小走りで去る。良時は、伊良を振り返った。

「兄上たちの行列が、国境くにざかいで襲われたらしい。迎えに行く」
「な……!」

 早馬は、やはり禄な報せを持ってこない。
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