【完結】余四郎さまの言うことにゃ

かずえ

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百七

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「私が好きなのはこただ。こたの顔が好きなのであって、綺麗な顔が好きなわけではない」
「え? ええっと。はい……」

 行成が、戸惑いつつ返事をする。ぱちりと瞬きをする様子は、どこか可愛らしかった。

「いや。こたの顔は綺麗だからな。やっぱり綺麗な顔が好きということになるのか……?」

 あ、うーん。それはどちらでもいいんじゃないだろうか。

「ま、どちらでもよいか」

 伊良が考えた答えと時行の答えは同じだったようだ。

「ま、そんな訳でな。皆覚えておけ。どんな綺麗な男を寄越そうが女を寄越そうがいらん。しろ……良時もであろ?」
「もちろんです、兄上。いりません」

 良時もけろりと答えた。

「大体、誰が相手でも閨事というのはできるものですか? 習った時に、私はいのとしかしたくないと思うたのですが。他の者相手に反応するとも思えない」
「へ?」

 今、とんでもないことを聞いたような……?

「同感だ、良時。私もこた以外としたくもないし、反応するとは思えぬ」
「な、な、な……!」
「なあ、こた。こたはどう」

 何か言いかけた時行の口を、行成の手が塞いだ。

「な、な、何を仰いますか!」

 真っ赤になって必死に言い募る行成から、先ほどの激しい怒りは消えていた。二人は、もう披露目も済んだ正式な夫夫ふうふだ。習っただけの伊良たちと違って、実践に入っていることだろう。何というか、その……。

「うらやましい」

 と、言ったのは良時だった。三々九度は許してもらえた良時だが、元服前ゆえとその後の行動は許されていない。まあ、その、目出度く元服もしたことだし、しっかりと披露目の祝言を上げれば、その……。想像して、伊良も真っ赤になった。

「若様方とそのご伴侶様方の仲睦まじきこと、何よりでございます。それでは、祝いの宴を始めましょう」
「そうだな。私と良時の伝えたいことは伝えた。その者らにも伝わったことであろう。宴会が終わるまで、その者らは護衛部屋に留め置くように。ああ。娘たちは女中部屋に連れていけ。男ばかりの部屋にいるのは恐ろしかろう」

 直井の当主が声を上げ、時行が改めて指示を出した。娘たちへの気遣いも忘れない優しさを見せて。
 そうだな。娘たちの謹慎場所は父親と別の方がいい。上手くいかずに苛立った親は、子に当たり散らすことがあるから。伊良はふと、理不尽に怒られてばかりだった頃を思い出して身を竦める。
 せっかく晴れ着を着せてもらって城へ来たのに、御馳走も食べられずこんな目にあってかわいそうなことだ。あの子たちはたぶん、父親の指示に従っただけであったのだろうに。

「しろ……良時さま。あの子たちに、ご飯だけはあげてください」

 伊良の言葉に、未だ伊良の背中に張り付いたままであった良時は目を瞬く。それから、ふ、と笑った。

「甘いなあ、いの。そなたを押しのけて私の妻になろうとしにきた娘たちなのに」
「え? あ……」

 そういえばそうであった。でもまあ、うん。伊良の旦那様は、そんなものに惑わされたりしないので。たぶん。

「はは。そういうところも好きだぞ」

 それはもう、あばたもえくぼ、という奴だ。まあ、伊良も、人のことは言えないが。

「賄いくらいは出してやれ」

 祝いの席を台無しにした相手に、伊良がお願いしたとはいえ、そうしてちゃんとご飯を出してくれる良時はやはり素敵な旦那様だ、と惚れ直しているのだから。

「もったいない……。その優秀なお血筋を……」

 最後に川野がつぶやいた言葉は、再び膳を運び始めた女中たちの物音に紛れて消えた。
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