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百十二
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幸せな将来に思いを馳せて気を取り直した伊良は、文を二通認めた。自分の実家である青池家と、行成の実家である直井家へ届けるためのものである。本当は、青池の屋敷へ今すぐ駆けつけたいところだが、伊良まで城を空けるわけにはいかない。もしも、時行を襲った者がただの無頼者ではないとしたら、城から玉乃川家の者が誰もいなくなる機会をうかがっているかもしれないからだ。そのような隙を見せてなるものか。
自分の出自や育ちに自信のない伊良だが、良時の伴侶であることを決して譲らないと決めたその時から、自信のなさを表には出さぬよう気を付けて生きてきた。たとえ、何を言われ何をされても、伊良がここにいる限り城を明け渡しはしない。
「藤兵衛」
「駄目ですよ。私はここから動きません」
やはりか、と伊良は肩を落とした。
「怪我人が多いのなら、義父上や義兄上を少しでも早く時行さまの元へ送った方が良いように思うのだが」
「でしょうね。けれど、伊良さまを一人にすることはできません」
「むう」
藤兵衛がそう言うことは分かっていた。分かっていたが、案外、城と近い距離の青池の屋敷へなら、藤兵衛が行って帰ってくる時間くらい一人で居ても構わないのでは、とも思ったのだ。誰も起きていない。外は暗く、物音もほとんどしない。だから。
「だいたい、この暗闇の中を、良庵先生と草庵先生に走らせるんですか? あ、いや。お二人は馬に乗ることができませんから、歩きになりますよ。腕っぷしもないお二人に、暗闇の中、自分の足で動いていただくのは賛成できませんや」
「あ……うん。そう……。そう、だな」
気が急くばかりに、無茶を言うところだった。
本当は、自分が四郎さまと共に行くことができたら良かったのだが。師匠たちのようにはできなくとも、医療の知識がない者よりは、怪我人に対して役に立てたかもしれない。
いや。城を守るのが自分の役割だと、先ほど気合いを入れたばかり……。
「伊良さま。こうして起きていると、不安が募るばかりだ。一度、寝床へ戻りましょうや。文は、夜が明けたらすぐに、使いをやって届けさせますから」
「あ、うん。いや……」
寝るべきなのは、藤兵衛もだ。昼の間ずっと、伊良に付いて身を守ってくれていたのだから。
「一緒に、寝る?」
「ぶっは」
藤兵衛は、ふき出した。
「相変わらずで嬉しいですけど、それ、絶対に、良時さまの前で言わないでくださいよ」
はっ、そうだった。
人数の少ない良時さまの家来たちが、睡眠を削って働こうとするものだから、ちゃんと寝なさい、私も一緒に寝るからと声を掛けて回り、大問題になったのはそんなに前の話ではなかった。
いのが一緒に寝るのは私とだけだ、分かったか、と散々に良時にたしなめられ、平謝りしたのだ。
「あの、うん……。そういう意味ではなく……」
二人で笑いあっていると、気分も上向いてくる。
伊良は、城でただ、時行や行成、良時の無事を祈って夜を明かした。
自分の出自や育ちに自信のない伊良だが、良時の伴侶であることを決して譲らないと決めたその時から、自信のなさを表には出さぬよう気を付けて生きてきた。たとえ、何を言われ何をされても、伊良がここにいる限り城を明け渡しはしない。
「藤兵衛」
「駄目ですよ。私はここから動きません」
やはりか、と伊良は肩を落とした。
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「でしょうね。けれど、伊良さまを一人にすることはできません」
「むう」
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「あ……うん。そう……。そう、だな」
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いや。城を守るのが自分の役割だと、先ほど気合いを入れたばかり……。
「伊良さま。こうして起きていると、不安が募るばかりだ。一度、寝床へ戻りましょうや。文は、夜が明けたらすぐに、使いをやって届けさせますから」
「あ、うん。いや……」
寝るべきなのは、藤兵衛もだ。昼の間ずっと、伊良に付いて身を守ってくれていたのだから。
「一緒に、寝る?」
「ぶっは」
藤兵衛は、ふき出した。
「相変わらずで嬉しいですけど、それ、絶対に、良時さまの前で言わないでくださいよ」
はっ、そうだった。
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いのが一緒に寝るのは私とだけだ、分かったか、と散々に良時にたしなめられ、平謝りしたのだ。
「あの、うん……。そういう意味ではなく……」
二人で笑いあっていると、気分も上向いてくる。
伊良は、城でただ、時行や行成、良時の無事を祈って夜を明かした。
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