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百十一
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「少しお休みください」
藤兵衛に、そう言われることは分かっていた。けれど伊良は、にこりと笑って夜着を脱ぐ。城で過ごすに相応しい着物に着替えると、良時と共に昼に過ごすことの多い、良時の仕事部屋へと足を運んだ。
初夏。人気のない廊下は、何となく寒い心地がする。草木も眠る丑三つ時に動いている者は、流石にいないらしい。とはいえ、日が昇ればすぐに、下働きの者たちが静かに仕事を始めることだろう。伊良も、そんな時間に起き出して仕事を始めていた頃があった。懐かしいことだ。
藤兵衛は、伊良の肩に掛ける羽織を持って後ろを付いてきてくれた。危険な場所へ出かけた良時を待つ伊良が、寝直すわけがないことは分かっているのだ。それでも、必ずひとこと言ってくれる事を嬉しく思う。
長い付き合いだ。良時が、時折やきもちをやくくらいには共にいる。伊良を理解した上で必ず言ってくれる一言は、大事な宝物。あまり言うことを聞いた覚えがないので、申し訳ないけれども。
寝床などいりません、私だけ休むなど、そんな訳には参りません、と言い張った兵士は、怪我の手当てを済ませて部屋を与え、置いてきた。そこで待て、などともっともらしいことを言って。一人になったらきっと、あの兵士は少し休めるだろう。
本当は、食べ物も与えてから一人にしたかったのだが、厨房でごそごそして、その辺りの者を起こしても申し訳ない。後で日が昇ったら、粥か雑炊を作ってもらって使用人に届けさせよう。
こういう時は、城ってのは人が多くて面倒だな、とちょっと思ったりする。青池の屋敷なら、夜中だろうが早朝だろうが、好きな場所を好きに使えたのだけれども。
いつか。
いつか、良時さまと二人で暮らす、小さな屋敷を構える事ができたなら。
伊良は、将来を夢見る。
小さな屋敷の掃除をして、食事を作り、庭に小さな畑を耕して暮らすのはどうだろう?
伊良は、近隣の者だけが知る医者として、よく知った者たちの軽い怪我や病気の手当てなどして日銭を稼いで。
穏やかに。二人で。
ああ、でも。きっと、じっとしていられない良時さまは、面倒事を持ち込まれては話を聞きに行ったりするんだろうな。そして、四郎さまに任せとけば間違いねえ、なんて噂を立てられて、結局はばたばたと日々を過ごすのだろう。
それも、悪くない。
藤兵衛に、そう言われることは分かっていた。けれど伊良は、にこりと笑って夜着を脱ぐ。城で過ごすに相応しい着物に着替えると、良時と共に昼に過ごすことの多い、良時の仕事部屋へと足を運んだ。
初夏。人気のない廊下は、何となく寒い心地がする。草木も眠る丑三つ時に動いている者は、流石にいないらしい。とはいえ、日が昇ればすぐに、下働きの者たちが静かに仕事を始めることだろう。伊良も、そんな時間に起き出して仕事を始めていた頃があった。懐かしいことだ。
藤兵衛は、伊良の肩に掛ける羽織を持って後ろを付いてきてくれた。危険な場所へ出かけた良時を待つ伊良が、寝直すわけがないことは分かっているのだ。それでも、必ずひとこと言ってくれる事を嬉しく思う。
長い付き合いだ。良時が、時折やきもちをやくくらいには共にいる。伊良を理解した上で必ず言ってくれる一言は、大事な宝物。あまり言うことを聞いた覚えがないので、申し訳ないけれども。
寝床などいりません、私だけ休むなど、そんな訳には参りません、と言い張った兵士は、怪我の手当てを済ませて部屋を与え、置いてきた。そこで待て、などともっともらしいことを言って。一人になったらきっと、あの兵士は少し休めるだろう。
本当は、食べ物も与えてから一人にしたかったのだが、厨房でごそごそして、その辺りの者を起こしても申し訳ない。後で日が昇ったら、粥か雑炊を作ってもらって使用人に届けさせよう。
こういう時は、城ってのは人が多くて面倒だな、とちょっと思ったりする。青池の屋敷なら、夜中だろうが早朝だろうが、好きな場所を好きに使えたのだけれども。
いつか。
いつか、良時さまと二人で暮らす、小さな屋敷を構える事ができたなら。
伊良は、将来を夢見る。
小さな屋敷の掃除をして、食事を作り、庭に小さな畑を耕して暮らすのはどうだろう?
伊良は、近隣の者だけが知る医者として、よく知った者たちの軽い怪我や病気の手当てなどして日銭を稼いで。
穏やかに。二人で。
ああ、でも。きっと、じっとしていられない良時さまは、面倒事を持ち込まれては話を聞きに行ったりするんだろうな。そして、四郎さまに任せとけば間違いねえ、なんて噂を立てられて、結局はばたばたと日々を過ごすのだろう。
それも、悪くない。
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