【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

40 緋色 46

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 成人なるひとが夜中に突然、ひーひーと泣き出した。涙が出ているわけではないが、喉からひきつれるような声が漏れている。
 どうした?と背中を擦ろうとすれば、うわぁ、と更に大きな声で離れようとする。
 寝ぼけているのは確かで、目は開いていない。起き上がってベッドから離れようとするから咄嗟に抱くと、いやあ!と叫んで暴れた。
 どうしようもなくて手を離すと、布団を避けるように転がり落ちる。
 悲鳴を聞いた夜番の護衛が駆け付けていて、寸でのところで受け止めたが、触れられるのが嫌なのか、また金切り声を上げた。
 四つん這いで床の感触を確かめ、お気に入りの絨毯の上で丸まった。
 毛足が長かったり、柔らかすぎると歩きにくいだろうと、ある程度弾力のある、毛足の短い絨毯を選んである。その具合がちょうど良かったようで、そのまま寝ているらしい。軽く触れてみると、またびくっと体が揺れた。仕方ないので、上掛けを持ってきて掛けたが、やはりひーひーと言いながら体から引き剥がすべく右手を振り回している。そっと避けると、また丸まった。
 
「参ったな……。生松いくまつを呼んできてくれ。」

 心配げに見守っていた夜番に告げると、すぐに音もなく出ていった。あの身のこなし、一ノ瀬いちのせか。
 大した待ち時間もなく生松いくまつが駆け付けた。
 常夜灯だけの室内を見渡して近寄ってくる。布団も掛けずに床に丸まっている成人なるひとと、少し離れている俺を見て静かに口を開いた。

「殿下、これは?」
「触れると怯える。布団にも怯えている。目覚めている様子は無い。」

 手短かに状況を説明する。生松いくまつは、触れないように気を付けて成人なるひとを覗きこんだ。

「少し、体温が高いような。汗をかいてますね。脂汗かな。できれば、拭き取りたいのですが。」
「何だと思う?寝るときは、風呂にも入って普通に寝たんだが。」
「……成人なるひとは、風呂にも怯えていたんですよね。」
「ああ、たぶん、体を洗っているときや洗った後に、ろくな思い出が無いんだろう。最近、初めて自分で、風呂に入りたいと言った。」
「……今日、さいさまが言っていましたが、戦闘人形ドールは兵器だから、布団で寝ることもない、と。それですかね?」
「……詳しく話せ。」
 
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