163 / 1,325
第三章 幸せの行方
64 緋色 55
しおりを挟む
離宮から王城までは、歩いて十分ほどである。俺と常陸丸の足で。
成人は、歩きが遅い上に、きょろきょろとよそ見をするので、なかなか進まない。楽しそうだが、そろそろ急いでほしい。
「成人、お仕事の時間に遅れたら駄目なんだ。抱いてもいいか?」
渋々頷いたのを抱き上げると、すぐに体重を預けてきた。
「疲れてるなら言え。」
「はーい。」
返事はするんだが、不調を伝えるのは相変わらず苦手らしい。
抱いて歩いていると、うつらうつらとし始めた。午前中は、目一杯仕事をしていたのだから、昼食後の今は眠くなる頃である。
一緒に行きたいと言うから、荘重もいるし、王城の入り口で別れてすぐに帰らせれば、良い散歩になるかと思っていたが、行く途中で寝てしまうのは、予想外だった。帰りの道を全て、荘重が抱いて歩くと思うと、嫌である。
「寝ちまった。」
常陸丸が、顔を覗きこんで呟く。もう、王城の前だった。
「仕方ない。母上に預かって頂こう。」
「へえ?」
「なんだ?」
「荘重さまに連れて帰ってもらえばいいんじゃないですか?」
「……久しぶりに挨拶をしておくよ。」
寝てしまった成人を抱いたまま、王城内に入る。皇族用の赤い軍服の俺と、軍服の常陸丸を止める者はいなかった。成人の頭にも、貴色である赤い帽子がかぶせてあるので、不躾な視線を送る者もいない。荘重は、いつの間にか姿を消していた。
皇族の居住区画に足を踏み入れるのは、久しぶりである。人が少なくて静かなところは割と気に入っていた。ほんの時々すれ違う使用人たちが、丁寧に頭を下げていく。母も昼寝の時間かもしれない、と思いつつ、扉を叩いた。
「母上。緋色です。」
「お入り。」
常陸丸は扉前に残し、中へ入った。
揺り椅子から立ち上がってこちらへ迎えに来てくれた母に、驚いた様子はない。すでに、使用人たちから、俺が向かっていると報せが来ていたのだろう。母は、成人の寝顔を覗いて、あらまあ、と言った。
「お久しぶりです、母上。」
「本当に久しぶりね。」
「この子を預かって頂きたい。」
「いつだって急なんだから。お名前は?」
「成人と言います。俺の、その、大切な奴です。」
「はい。なるひとちゃんね。」
母は、部屋に控えていた使用人に布団を準備させた。自分の揺り椅子のすぐ横に寝かせるらしい。
布団に置くと、嫌そうに身じろぎした成人に、母の優しい手が、ぽんぽんと背中を叩く。寝息は深いものだったので、ほっと見ていると、上掛けをそっとかけた母が、笑っていた。
「では、いってらっしゃい。」
部屋を追い出されて、とりあえず常陸丸を連れて、会議の部屋へと向かった。
成人は、歩きが遅い上に、きょろきょろとよそ見をするので、なかなか進まない。楽しそうだが、そろそろ急いでほしい。
「成人、お仕事の時間に遅れたら駄目なんだ。抱いてもいいか?」
渋々頷いたのを抱き上げると、すぐに体重を預けてきた。
「疲れてるなら言え。」
「はーい。」
返事はするんだが、不調を伝えるのは相変わらず苦手らしい。
抱いて歩いていると、うつらうつらとし始めた。午前中は、目一杯仕事をしていたのだから、昼食後の今は眠くなる頃である。
一緒に行きたいと言うから、荘重もいるし、王城の入り口で別れてすぐに帰らせれば、良い散歩になるかと思っていたが、行く途中で寝てしまうのは、予想外だった。帰りの道を全て、荘重が抱いて歩くと思うと、嫌である。
「寝ちまった。」
常陸丸が、顔を覗きこんで呟く。もう、王城の前だった。
「仕方ない。母上に預かって頂こう。」
「へえ?」
「なんだ?」
「荘重さまに連れて帰ってもらえばいいんじゃないですか?」
「……久しぶりに挨拶をしておくよ。」
寝てしまった成人を抱いたまま、王城内に入る。皇族用の赤い軍服の俺と、軍服の常陸丸を止める者はいなかった。成人の頭にも、貴色である赤い帽子がかぶせてあるので、不躾な視線を送る者もいない。荘重は、いつの間にか姿を消していた。
皇族の居住区画に足を踏み入れるのは、久しぶりである。人が少なくて静かなところは割と気に入っていた。ほんの時々すれ違う使用人たちが、丁寧に頭を下げていく。母も昼寝の時間かもしれない、と思いつつ、扉を叩いた。
「母上。緋色です。」
「お入り。」
常陸丸は扉前に残し、中へ入った。
揺り椅子から立ち上がってこちらへ迎えに来てくれた母に、驚いた様子はない。すでに、使用人たちから、俺が向かっていると報せが来ていたのだろう。母は、成人の寝顔を覗いて、あらまあ、と言った。
「お久しぶりです、母上。」
「本当に久しぶりね。」
「この子を預かって頂きたい。」
「いつだって急なんだから。お名前は?」
「成人と言います。俺の、その、大切な奴です。」
「はい。なるひとちゃんね。」
母は、部屋に控えていた使用人に布団を準備させた。自分の揺り椅子のすぐ横に寝かせるらしい。
布団に置くと、嫌そうに身じろぎした成人に、母の優しい手が、ぽんぽんと背中を叩く。寝息は深いものだったので、ほっと見ていると、上掛けをそっとかけた母が、笑っていた。
「では、いってらっしゃい。」
部屋を追い出されて、とりあえず常陸丸を連れて、会議の部屋へと向かった。
1,841
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる