【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

80 成人 76

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 熱を出した。
 悔しい。
 張り切りすぎたら駄目だと生松いくまつに怒られて、でも俺はガラスの金魚が欲しかった。涙が出てくるのは、熱のせい。きらきらを見たかったけど、ビー玉も、もうない。
 
「泣くな。」

 緋色ひいろが、額に乗せた布を冷たいものに替えてくれた。ふー、と熱い息を吐き出す。

「泣いて、ない…。」
「そうか。」

 欲しいものなんて、無かった。
 命令されるままに、生きてきた。渡されるもので、生きてきた。お腹が空いたら空いたまま。怪我しても体調を崩しても、がまん。動けなくなれば、死ぬだけ。命令を聞かなければ、死ぬだけ。
 ただそれだけのこと。
 ……飴。
 死ぬ前に、もう一回食べたいって思ったのが、たぶん初めての欲しいもの。握ってた飴が無くなってて大泣きしたことは、覚えてる。
 俺は、また弱くなったんだろう。
 もうこれ以上弱くなりようがないと思うくらい弱くなったのに、まだまだ下があるらしい。
 死ぬまで生きる、だった。
 緋色ひいろとの約束で、死んだら駄目、になった。結婚の誓いだから守ろうと思った。俺が、側にいてほしいと願ったのだ。ほんの少しの間、一緒にいたかった。一番好きな人。願いは叶えられて、俺は幸せで。緋色ひいろも、俺の欲しいものだったのだろうか。
 俺は、なんて強欲なんだろう。
 涙が止まらない。
 ガラスの金魚が欲しい。音の鳴る箱も。ビー玉も。飴をまた、買いに行きたい。
 知らなければ、こんな気持ちにならなかったのかな。
 
「どうした。」

 ぐすぐすと泣く俺を、緋色ひいろが膝に抱き上げた。

「しんどいのか。」

 首を横に振る。熱い。でも、抱っこは好き。こういうのも、欲しい気持ちの仲間?
 
「欲しいものがあれば、言え。」

 それは、言ってもいいの?それは、俺を弱くするのに。死なないように、強くならなくちゃならないのに。
 うまく呼吸ができなくて、苦しい。

「今までの祝われなかった誕生日を全部、祝ってやるから。もう、欲しいものが無くなるくらい、贈り物をやるよ。熱が下がったら考えろ。」

 ぼんやりした頭には、よく分からないけれど。
 今、欲しいもの。

「こおり……。」

 緋色ひいろはすぐに、俺を抱いたまま冷蔵庫に向かってくれた。
 俺は今、死んだら駄目、どころじゃない。死にたくないんだ……。
 明日も、明後日も、その次の日も、生きてここにいたい。
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