【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
220 / 1,325
第四章 西からの迷い人

10 挨拶  緋色

しおりを挟む
 会議が嫌いだ。すでに水面下で調整して結論は出ているのに、決まりきった問答をやらなければ議案を採決できないなど、面倒この上ない。

「この手順が無いと、勝手に決められたと不満を述べる者がたくさん出るから、必要な手間なんだよ。こういう目に見える形というのも、大切なことだからね。」

 朱実あけみの正論にぐうの音も出ない。会議が嫌いなのは俺の我儘なのだと思い知らされるからだ。
 我慢はするが、不満は俺の内にたまっていく。
 部屋へ帰って成人なるひとを抱き上げると、そのままソファにどさりと座る。

「おかえり。」

 文句も言わずに抱きついてくれるので、そのまま細い首筋に顔を置いて深呼吸した。ああ、落ち着く。
 しばらく成人なるひとを堪能していると、こんこんとノックが聞こえた。

「あ、来た。いいよー。」
「何だ?」

 成人なるひとが入室許可を出してしまったので、俺が事情を聞く前に人が入ってくる。

「失礼します。錫ヶ瀬すずがせ広末ひろすえです。新しい調理人を雇うことになったのでご挨拶に連れて参りました。」

 広末ひろすえが後ろに、ひょろりと背の高い痩せた男を連れている。男の細い目が、こちらを向いて一度びっくりと見開かれた。膝の上に成人なるひとを抱いたままだからな。成人なるひとが膝の上で器用に向きをかえた。ここで、話を聞くのか?ま、いいか。
 男は、すぐにすっと表情を戻すと、広末ひろすえが立ち止まった所でなめらかに膝を付く。綺麗な仕草で左拳の上に右手を置いて頭を下げた。

九鬼くき壱臣いちおみが、緋色ひいろ殿下にご挨拶申し上げます。この度、縁あってこちらの厨房にて調理をさせて頂く運びとなりました。よろしくお見知りおきください。」 
九鬼くきの壱か。お家騒動の話は聞いていないが。」

 西の小国のうち、最も栄えていた国を治めていたのが九鬼くき家。帝国と併合してからも、その辺りの領主として君臨している。九鬼くき家は、直系の子どもに生まれた順に数字を名前に入れると聞くので、壱なら跡取りのはず。領民たちは未だに、九鬼くきの当主を殿さまと呼んで慕っているような地域だ。名前だけ聞けば、若さまと言われて育っている人物のはずだが。

「お家騒動なんてありません。物騒なことを言わんでください。」
「へえ?」
「うちが、身を引いてすんだ話です。」
「身を引いて、こんなとこへ?」
「身を引いてもまだ心配らしいから、行方をくらましたんです。」
「名乗ってちゃ、くらませられないだろう?」

 くっくっと笑うと、壱臣いちおみは憮然とした表情でこちらを見た。

「……うちも結局、偽名を使うという頭もない坊っちゃんやったということですわ。」

 だが、運は良かったのじゃないか。離宮ここの守りは、本気を出せばたぶん、王城より堅い。決まった人間しか訪れないから、お前の命を狙う者に見つかる心配はほとんど無くなった。

成人なるひとが美味しいと言って食べられる料理を作る料理人を歓迎する。」

 俺の言葉に、壱臣いちおみは丁寧に頭を下げた。

「有り難き幸せ。」

 静かに見守っていた成人なるひとが、膝の上で嬉しそうに笑った。

 
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

処理中です...