【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

17 難しい話  成人

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 泣いた壱臣いちおみは、病院に行くか?と広末ひろすえに聞かれて首を横に振った。

「無事なら、ええんです。」

 それだけ言って、いなり寿司作りの作業に戻る。

「むー。」

 また、ええんです、って言う。半助はんすけ壱臣いちおみも。  
 ええんです。
 何がいいのか、さっぱり分からない。無事が分かればそれでいい。その後は、どうするのか。泣いたのは何で?
 悲しくても、苦しくても、寂しくても、嬉しくても、気持ちよくても涙は出るらしい。
 壱臣いちおみの涙はどれ?

「……る。なる坊。」

 はっ。

「とりあえず、殿下のお部屋で座って考えろ。ほら。」

 広末ひろすえが氷を二つコップに入れて渡してくれた。やった、氷だ。俺はすぐに一つ口に入れて、ころころ舐めながら緋色ひいろの執務室に帰った。
 昼ごはんは、緋色ひいろと美味しく食べた。いなり寿司は噛みにくくて食べるのに時間がかかるけど、甘くて好き。
 今日は、食べるのにも考えるのにも、疲れた……。


「氷にする。」

 自分の声にびっくりして目を覚ます。ん?あれ?
 ふっ、ふふふふふ、と上品な笑い声がする。

「ね、寝言?」
「どんな夢?」

 朱実あけみ殿下と赤璃あかりさま?見上げると緋色ひいろが呆れた顔で見てる。

「たぶん、飴と氷のどちらを食べるか選んでたんだろ。」
「あ、うん。」

 あんなに迷ったのに、どっちも無いじゃん……。
 何となくがっかりして緋色ひいろの胸にぐりぐりと頭を擦り付けた。
 水のコップが目の前に出されて、広末ひろすえが笑っている。氷も一つ入ってるから、飲むー。
 受け取ると緋色ひいろがうつ伏せから前向きに抱き直してくれた。
 んー、氷だけ食べたい。

壱臣いちおみ殿。話を中断してごめんね。」
「いえ。」
「ここで働くにあたって貴方が話した内容は報告を受けている。当主争いから身を引いたんだったね。それは最近?」
「いえ。もう子どもの頃から厨房で隠れ住んどりましたから。とうの昔に……。あ、けど父に宣言して城を出たのは少し前に、なるんやろか?」
「隠れ住む。なかなか興味深い話だけど、まあ、色んな人生があるよね。」
「はあ。」
「それで、だ。貴方が来てから少し調べたんだが、九鬼くき家は今の当主になってから、一度も次期当主の指名は行われていないね。貴方が、隠れていたからかな?」
「父は、うちを当主にしたかった。後妻の奥方様は自分の生んだ子を当主にしたい。」
「貴方が家を出たらその弟がなるしかないのに、未だ指名されていないのは、何故?」
「……うちは、双子です。叔父の子として育てられている弟がおります。父は、弐角にかくを戻したいんやと思います。」
「ふむ。その今の奥方との子には当主の座を渡したくないんだね。何故か分かる?」
「調べる方法は無いけど、その、父は、一二三ひふみを自分の子やないと思うとると思います。」

 ははあ、と朱実あけみ殿下は腕を組んだ。

「なかなかに面倒くさい。」
「会えば、分かるんやないかと。」
「そんなに?せめて似た人を選べば良いのに……。」

 何か難しい話をしてるなあ。俺、何でここにいるんだろ?
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