259 / 1,325
第四章 西からの迷い人
49 最後の晩餐 5 一二三
しおりを挟む
やがて、人がどんどんとやって来て、挨拶を交わす。離宮の使用人と住人ばかりだった。来賓は私たち三人だけらしい。着替えた半助の隣に壱臣兄上の姿はなく、厨房へ手伝いに行ったとのことだった。
体の大きな老人が、お酒の瓶と疲れてふらふらの人間を一人抱えてやって来て、いい運動をした、と豪快に笑った。
「うちの者がお世話になりました。」
「おう、見込みあるぞ。」
弐角の言葉に、腕の中の人間をどさりと落とす。
「若ぁ、このご老体、無茶苦茶です。」
「お前は、なかなか頑張った。ほら、飲め。」
「今は、冷たい水が欲しいです。」
「付き合い悪いのう。」
「利胤さま。楽しそうなことしてるじゃないですか!」
「おう、力丸、おかえり。」
「手合わせなら、俺も一緒にやりたかったあ。」
「はっはっはっ。」
弐角の護衛か。同じ年頃の、動きやすそうな黒装束の男が、汗で貼りついた長い髪を手ぬぐいで拭きながらへたり込んでいる。
「若。この方は?」
「ん?力丸くんか?ここの住人やそうや。」
「……この屋敷、怖すぎます。勝てる相手がおらん。」
そんな会話を聞いていると、奥の引き戸が開いて白衣の料理人が顔を出す。
「できたぞー。」
「はーい。」
その声に部屋の中の人々がぞろぞろと立ち上がった。首を傾げていると、力丸と利胤と呼ばれていた老人が立ち上がりながら言う。
「お客様は座ってて。食事を持ってきます。」
「才蔵、お前も座っておれ。わしがお前のも若のも運んでやろう。」
「え?俺の分もあるんですか?」
「おお。あちらの二人の分もあるから、席に着かせておけ。」
「え?護衛も?あ、あの、席はどこに?」
「ああ、好きなとこに座ったらいいですよ。」
私の質問への答えはあっさりしていた。
「え?」
「あの座椅子が成人ので、その隣は殿下の席。それ以外はどこでもいいですよ。」
使用人も主人も関係なく、一緒に食事を?席すら自由に?
戸惑いながら、弐角の近くに座る。私と弐角の間に力丸が入ってくれて、反対の横に弐角の護衛の才蔵、その横に利胤が座った。私の隣に、嫌がる母を座らせる。ごねようとしたときに、楽な普段着に着替えた緋色殿下が成人さまを抱いて現れ、母は怒りを抑えながら席に着いた。その横に護衛の二人も座らせると、目の前に盆に乗せた料理が運ばれる。力丸と利胤の他にも、部屋に居た者が手分けして運んでくれたようだった。
殿下も、成人さまを座椅子に座らせると身軽に立ち上がる。
まさか、殿下も?と驚いている間に食事を取りに歩いていく。
誰もが当然のような顔で思い思いの席につき、ほかほかと湯気の上がる食事の前で手を合わせていた。
湯気の上がる食事。毒見も何もなく、受け取ってすぐに食べる食事。……初めてかもしれない。私は自然と手を合わせていた。
質素な食事だ。鶏肉と季節の野菜の炊き合わせ。ご飯、味噌汁、だし巻き玉子。これが、一汁二菜というものか。見慣れたものより濃い色味だが、皇都の特色なのだろうか。
見慣れた色味のだし巻き玉子を口に含んでみる。ふんわりと優しい味がした。
「壱臣さんのだし巻き玉子、美味しいでしょ?」
力丸の声に、ええ、とても、と答えた。母が隣で何か小さな声で言っているが、邪魔しないでほしい。
母上、あなたも味わうべきだ。
これは多分、私たちが壱臣兄上の料理を食べられる、最初で、最後の、晩餐なのだから。
体の大きな老人が、お酒の瓶と疲れてふらふらの人間を一人抱えてやって来て、いい運動をした、と豪快に笑った。
「うちの者がお世話になりました。」
「おう、見込みあるぞ。」
弐角の言葉に、腕の中の人間をどさりと落とす。
「若ぁ、このご老体、無茶苦茶です。」
「お前は、なかなか頑張った。ほら、飲め。」
「今は、冷たい水が欲しいです。」
「付き合い悪いのう。」
「利胤さま。楽しそうなことしてるじゃないですか!」
「おう、力丸、おかえり。」
「手合わせなら、俺も一緒にやりたかったあ。」
「はっはっはっ。」
弐角の護衛か。同じ年頃の、動きやすそうな黒装束の男が、汗で貼りついた長い髪を手ぬぐいで拭きながらへたり込んでいる。
「若。この方は?」
「ん?力丸くんか?ここの住人やそうや。」
「……この屋敷、怖すぎます。勝てる相手がおらん。」
そんな会話を聞いていると、奥の引き戸が開いて白衣の料理人が顔を出す。
「できたぞー。」
「はーい。」
その声に部屋の中の人々がぞろぞろと立ち上がった。首を傾げていると、力丸と利胤と呼ばれていた老人が立ち上がりながら言う。
「お客様は座ってて。食事を持ってきます。」
「才蔵、お前も座っておれ。わしがお前のも若のも運んでやろう。」
「え?俺の分もあるんですか?」
「おお。あちらの二人の分もあるから、席に着かせておけ。」
「え?護衛も?あ、あの、席はどこに?」
「ああ、好きなとこに座ったらいいですよ。」
私の質問への答えはあっさりしていた。
「え?」
「あの座椅子が成人ので、その隣は殿下の席。それ以外はどこでもいいですよ。」
使用人も主人も関係なく、一緒に食事を?席すら自由に?
戸惑いながら、弐角の近くに座る。私と弐角の間に力丸が入ってくれて、反対の横に弐角の護衛の才蔵、その横に利胤が座った。私の隣に、嫌がる母を座らせる。ごねようとしたときに、楽な普段着に着替えた緋色殿下が成人さまを抱いて現れ、母は怒りを抑えながら席に着いた。その横に護衛の二人も座らせると、目の前に盆に乗せた料理が運ばれる。力丸と利胤の他にも、部屋に居た者が手分けして運んでくれたようだった。
殿下も、成人さまを座椅子に座らせると身軽に立ち上がる。
まさか、殿下も?と驚いている間に食事を取りに歩いていく。
誰もが当然のような顔で思い思いの席につき、ほかほかと湯気の上がる食事の前で手を合わせていた。
湯気の上がる食事。毒見も何もなく、受け取ってすぐに食べる食事。……初めてかもしれない。私は自然と手を合わせていた。
質素な食事だ。鶏肉と季節の野菜の炊き合わせ。ご飯、味噌汁、だし巻き玉子。これが、一汁二菜というものか。見慣れたものより濃い色味だが、皇都の特色なのだろうか。
見慣れた色味のだし巻き玉子を口に含んでみる。ふんわりと優しい味がした。
「壱臣さんのだし巻き玉子、美味しいでしょ?」
力丸の声に、ええ、とても、と答えた。母が隣で何か小さな声で言っているが、邪魔しないでほしい。
母上、あなたも味わうべきだ。
これは多分、私たちが壱臣兄上の料理を食べられる、最初で、最後の、晩餐なのだから。
1,511
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる