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第四章 西からの迷い人
55 巣立ち 4 力丸
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厨房との境の引き戸の前に、気配を消して立っていた半助さんが、片付けに引っ込んでいた壱臣さんを連れ出してきた。
「え?何?」
肩を抱えて誘導し、一二三さまとその母の前に座らせる。
「壱臣さま。長い間、あなたを命の危機にさらし、傷付けていたこと、心よりお詫び申し上げます。本当に、申し訳ございません。私は……。あなたの髪が短いことにも、あなたが姿を見せないことにも、気を止めもせず……。なんて、ことを……。」
「一二三さん、やめなさい。あなたが謝ることなんて何もあらへん。」
「半助の腕も……。本当に、どう償えば……。私は……。」
涙声と金切り声は重なるように響いた。
「え、何?どうして?」
壱臣さんが、困って一二三さんと半助さんを見比べる。半助さんは、黙って壱臣さんを抱いた腕に力を込めた。
いつの間にか、その近くに歩いて来ていた成人の右目が、女をじっと見る。
「ちゃんと謝らないと。」
「こ、こ、この無礼者!」
「母上。不敬です。」
「一二三さん、こんなんが殿下の伴侶な訳ないやろ。うちらをからかってるのや。こんな茶番までして、何が目的やの?」
一二三さまが、深く深くため息を吐いて、その目には涙が浮かんだ。
「共に食事を頂くという温情を受けている間に、あなたは何を見ていたんですか?」
話し始めると、その目からは堪えきれない涙がこぼれる。
「どの方々も、深く愛するご伴侶への気持ちを隠しもしてへんかった。あの食事の様子を見ても、あなたには、誰が誰の伴侶であるか分からないというんですか?」
「一二三さん……。」
「あなたは、他人の気持ちなんか見てないんや。いつも、いつも。口では、私のためと言っとっても!」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、一二三さまが言葉を吐き出す。
「……私が、一度だけおねだりしたことを覚えてますか?」
「え……?」
「私は、半助に護衛をしてもらいたい、と言った。すぐに連れてこられた半助は、自分は九鬼にしか仕えない、と言うて断った。あなたは、半助が断ったことを怒り、決して出世できないようにしてやる、と言った。」
「ええ……。」
「私は、その断られた理由にずっと引っかかっとった。九鬼にしか仕えないって言われて、何でおかしいと言わへんのか。答えは一つ。私は九鬼やのうて、それを母上は知ってるってことや。」
「……え?」
「私は九鬼やない。母上は、母上と私は、九鬼を追い出して、国を乗っ取ろうとした大罪人や。」
「何を、何を言うて……。」
「壱臣さま、まずは私の髪を切ってください。」
壱臣さんは、ふるふると大きく首を横に振った。
「臣に、これ以上の負担をかけるというんか!」
半助さんの声は、ただただ怒りを含んで。
「髪を切るの?なんで?」
「うちの国では、髪が短いんは罪人かよほどの貧乏人。蔑みの対象なんです。それを罰として受けると言うことです。」
「ふーん。」
半助さんの説明に頷いて、成人が一二三さまの懐から小刀を取り出した。それをそのまま、一二三さまの前に置く。
そうだよな、成人。
髪を切られることの絶望を一番知っている壱臣さんに、髪を切れだなんて、まだまだ傲慢だ。
けじめは、自分でつけろ。
「え?何?」
肩を抱えて誘導し、一二三さまとその母の前に座らせる。
「壱臣さま。長い間、あなたを命の危機にさらし、傷付けていたこと、心よりお詫び申し上げます。本当に、申し訳ございません。私は……。あなたの髪が短いことにも、あなたが姿を見せないことにも、気を止めもせず……。なんて、ことを……。」
「一二三さん、やめなさい。あなたが謝ることなんて何もあらへん。」
「半助の腕も……。本当に、どう償えば……。私は……。」
涙声と金切り声は重なるように響いた。
「え、何?どうして?」
壱臣さんが、困って一二三さんと半助さんを見比べる。半助さんは、黙って壱臣さんを抱いた腕に力を込めた。
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「ちゃんと謝らないと。」
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「母上。不敬です。」
「一二三さん、こんなんが殿下の伴侶な訳ないやろ。うちらをからかってるのや。こんな茶番までして、何が目的やの?」
一二三さまが、深く深くため息を吐いて、その目には涙が浮かんだ。
「共に食事を頂くという温情を受けている間に、あなたは何を見ていたんですか?」
話し始めると、その目からは堪えきれない涙がこぼれる。
「どの方々も、深く愛するご伴侶への気持ちを隠しもしてへんかった。あの食事の様子を見ても、あなたには、誰が誰の伴侶であるか分からないというんですか?」
「一二三さん……。」
「あなたは、他人の気持ちなんか見てないんや。いつも、いつも。口では、私のためと言っとっても!」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、一二三さまが言葉を吐き出す。
「……私が、一度だけおねだりしたことを覚えてますか?」
「え……?」
「私は、半助に護衛をしてもらいたい、と言った。すぐに連れてこられた半助は、自分は九鬼にしか仕えない、と言うて断った。あなたは、半助が断ったことを怒り、決して出世できないようにしてやる、と言った。」
「ええ……。」
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「……え?」
「私は九鬼やない。母上は、母上と私は、九鬼を追い出して、国を乗っ取ろうとした大罪人や。」
「何を、何を言うて……。」
「壱臣さま、まずは私の髪を切ってください。」
壱臣さんは、ふるふると大きく首を横に振った。
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半助さんの声は、ただただ怒りを含んで。
「髪を切るの?なんで?」
「うちの国では、髪が短いんは罪人かよほどの貧乏人。蔑みの対象なんです。それを罰として受けると言うことです。」
「ふーん。」
半助さんの説明に頷いて、成人が一二三さまの懐から小刀を取り出した。それをそのまま、一二三さまの前に置く。
そうだよな、成人。
髪を切られることの絶望を一番知っている壱臣さんに、髪を切れだなんて、まだまだ傲慢だ。
けじめは、自分でつけろ。
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