【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

60 緋色の護衛のお仕事  成人

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 どうぞこちらへ、と会場の従業員が緊張した様子で声をかけてきた。
 朱実あけみ殿下と赤璃あかりさまが、優雅に歩いていく。ぼんやり見ていたら、緋色ひいろの手が俺の背中に回って、行くぞって言われた。偉い人から順に案内されるらしい。会場に入ると、父さまと雫石しずくさんが席に着いていた。近いけど違う机で、ちょっとがっかり。二人とも、仮面を被っている。なるほど。皇族のお仕事ね。
 俺と緋色ひいろが案内された席に着こうとすると、すぐに後ろから挨拶が聞こえてきた。

緋色ひいろ殿下、お久しぶりにございます。」
「ああ。」

 緋色ひいろが仮面を被って挨拶を受けるので、俺もぺこりと頭を下げる。声をかけてきた、父さまと同じくらいの年の人が、じろりと俺を睨んだ。
 その後、緋色ひいろに何だか気持ちの悪い笑顔を向ける。

「これは、うちの娘です。野花のばなと申します。よろしくお見知りおきを。」

 男の隣で頭を下げていた若い女の人が、紹介されて顔を上げ、緋色ひいろへ向かって、ふらりとふらついた。
 この部屋には護衛が入れないので警戒していた俺は、咄嗟に緋色ひいろの腕を掴んで、下がりながら強く引く。緋色ひいろは、すぐに俺のやりたいことを分かって一緒に下がってくれたので、野花のばなは悲鳴を上げてそのまま倒れた。

「あ、え、きやあ!」

 近くで椅子を引こうと立っていた従業員が驚いて近寄ろうとするのを、野花のばなの父親が目で制している。
 なんだ?
 早く起こしてあげたらいいのに。
 野花のばなは、目を大きく見開いて、うるうると涙をにじませながら、緋色ひいろを見上げていた。

「殿下。女性が倒れそうだというのに避けるとは。」

 父親が口を開く。

「体調が悪いなら、救護室へいった方がいい。迷惑だ。」
「いえ、大丈夫でございます。すみません。お手をお借りできますか?」

 野花のばなが可愛らしい声で緋色ひいろに答えた。

「助けてやれ。」

 緋色ひいろが従業員に指示を出すと、悲しげに目を伏せる。
 父親が声を上げた。

「殿下のお手はお貸し頂けないので?」
「護衛を連れていない場所で、迂闊なことをする気はない。今も、嫁に守ってもらったしな。」
「…………。嫁、ですか。」
「ああ。知っているだろう。」

 野花のばなを助け起こした従業員が、俺たちの方へ来て椅子を引いてくれた。
 どんどん入ってくる招待客が黙って席に着いていくのに、ここだけうるさくて、目立ってしまっている。
 ちゃんとしなよね。
 椅子に座って緋色ひいろを見ると、ちょっと笑って頭を撫でてくれた。
 ふふ。
 ここでの護衛は任せて!
 
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