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第四章 西からの迷い人
89 温かい食事 三郎
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「成人、さっきはごめんな。」
「ボタン押したから、いいよー。」
券と引き換えに、料理をもらって自分で運ぶ。適当に空いている席に座る。離宮で生活させてもらっていなかったら、立ち尽くしていたことやろう。
この数日で、今まで生きてきた何年分よりもたくさんの経験をしとる。
小さな器にうどんを移して、ふーふーと息を吹きかけている成人さまが、力丸さまの謝罪に軽く答えた。
あんなに悲しそうやったのに、もうええんか。
力丸さまも、当たり前のように成人さまの向かい側の席に着く。
喧嘩したわけや無かったんか?私には、同等に話をする同年代の人間がいなかったから、よう分からん。
「三郎、ここ。」
私はどこに座ろうか、と思う間もなく隣の席を示されて、大急ぎで座った。呼んでもらえて、嬉しい。
「あ、水瀬だ。」
うどんを口に入れて噛みながら九鬼の家臣団を見ていた成人さまが言った。
水瀬……さん?
離宮で私に、着替えを渡してくれた人?乙羽さまと一緒に、仕事も教えてくれた小さな可愛らしい女性。離宮に置かれてから毎日、洗濯と掃除をしている姿を見かけたけど……。
振り返って家臣団を確認する。
私が先ほど思い浮かべていた通りの人物しか見えなかった。見知った者たち。いや、母の世話役の女中が一人、足りひんな。それと。
「ははうえ……?」
母の姿が見えん。
「奥方様は車の中におられます。」
「ひ。」
突然、隣の席に人が現れた。成人さまに靴を履かせとった、確か荘重さま。驚いたのは私だけだったので、元から居はったのに、私が気付いてなかったんかもしれん。天ぷらそばも机に置いとるし。
「このような下賎な場所で、下賎な食事などできぬとおっしゃられて。」
母が言いそうなことや……。
「車の中にお篭りですので、お世話の者も一人、食事を摂れていないようです。」
「すみません……。」
「いえいえ、お気持ちは分かります。貴方も、こんなところで食事は初めてでしょう?」
「あ、はい……。」
嘘をついても仕方ないので、うつ向いて答えた。
「俺も初めて。」
「ボタンが押せましたな。」
成人さまの方を向くときに、荘重さまの顔付きが、ふっと緩んだ気がした。
「そうそう。水瀬は仕事中ですので、声はかけないでください。」
「分かった。」
「よく気付きましたね、流石です。」
「分かるよー。」
ほんの少しずつうどんを口にしながら、機嫌良く成人さまが話す。
もう一度振り返って見たけど、やっぱり見知った顔しか見えんかった。
「三郎、気にするな。早く食え、伸びるぞ。」
「あ、はい。」
力丸さまは、大盛りの定食なのにもう、半分無くなっとる。
慌てて口に入れようとして止まり、成人さまのように、ふーふーと息をかけた。毒味を経てから渡される食事が多かったから、私も熱い物が苦手らしい。離宮滞在一日目で舌を火傷してから、気を付けとる。
母にもし、話をすることができたら。
一品だけの温かい食事が、とても美味しいことを教えてあげたい……。
「ボタン押したから、いいよー。」
券と引き換えに、料理をもらって自分で運ぶ。適当に空いている席に座る。離宮で生活させてもらっていなかったら、立ち尽くしていたことやろう。
この数日で、今まで生きてきた何年分よりもたくさんの経験をしとる。
小さな器にうどんを移して、ふーふーと息を吹きかけている成人さまが、力丸さまの謝罪に軽く答えた。
あんなに悲しそうやったのに、もうええんか。
力丸さまも、当たり前のように成人さまの向かい側の席に着く。
喧嘩したわけや無かったんか?私には、同等に話をする同年代の人間がいなかったから、よう分からん。
「三郎、ここ。」
私はどこに座ろうか、と思う間もなく隣の席を示されて、大急ぎで座った。呼んでもらえて、嬉しい。
「あ、水瀬だ。」
うどんを口に入れて噛みながら九鬼の家臣団を見ていた成人さまが言った。
水瀬……さん?
離宮で私に、着替えを渡してくれた人?乙羽さまと一緒に、仕事も教えてくれた小さな可愛らしい女性。離宮に置かれてから毎日、洗濯と掃除をしている姿を見かけたけど……。
振り返って家臣団を確認する。
私が先ほど思い浮かべていた通りの人物しか見えなかった。見知った者たち。いや、母の世話役の女中が一人、足りひんな。それと。
「ははうえ……?」
母の姿が見えん。
「奥方様は車の中におられます。」
「ひ。」
突然、隣の席に人が現れた。成人さまに靴を履かせとった、確か荘重さま。驚いたのは私だけだったので、元から居はったのに、私が気付いてなかったんかもしれん。天ぷらそばも机に置いとるし。
「このような下賎な場所で、下賎な食事などできぬとおっしゃられて。」
母が言いそうなことや……。
「車の中にお篭りですので、お世話の者も一人、食事を摂れていないようです。」
「すみません……。」
「いえいえ、お気持ちは分かります。貴方も、こんなところで食事は初めてでしょう?」
「あ、はい……。」
嘘をついても仕方ないので、うつ向いて答えた。
「俺も初めて。」
「ボタンが押せましたな。」
成人さまの方を向くときに、荘重さまの顔付きが、ふっと緩んだ気がした。
「そうそう。水瀬は仕事中ですので、声はかけないでください。」
「分かった。」
「よく気付きましたね、流石です。」
「分かるよー。」
ほんの少しずつうどんを口にしながら、機嫌良く成人さまが話す。
もう一度振り返って見たけど、やっぱり見知った顔しか見えんかった。
「三郎、気にするな。早く食え、伸びるぞ。」
「あ、はい。」
力丸さまは、大盛りの定食なのにもう、半分無くなっとる。
慌てて口に入れようとして止まり、成人さまのように、ふーふーと息をかけた。毒味を経てから渡される食事が多かったから、私も熱い物が苦手らしい。離宮滞在一日目で舌を火傷してから、気を付けとる。
母にもし、話をすることができたら。
一品だけの温かい食事が、とても美味しいことを教えてあげたい……。
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