【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

104 うたかたの夢 2  綾女

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 初めて自分を特別扱いしない人間に会うた。もともと見目が好みではないのもあって、嫌だと思う気持ちが育ってゆく。
 それでも、家の者は期待を込めて言うのだ。
 綾女あやめさまと壱鷹いちたかさまが並ぶと一対の人形のようやねえ、と。
 自分を特別扱いしない人間の側へ、わざわざ近寄る気はない。私はこんなに綺麗なのやから、あちらから声をかけてくるべきなのだ。

壱鷹いちたかさまとは、仲良うなれたか?」

 お父さまに聞かれる度に、曖昧に微笑んだ。そんな顔でも美しかったらしく、そうかそうか、と笑顔で頷いてくれる。仲良うも何も、初日以外に話したことなどありはしない。三人の姉妹は、毎朝懲りもせず挨拶をしとるけど、あちらが先に挨拶をするべきやと思うとる私は、挨拶すらしていなかった。
 どうやら、私が若君に話しかけない方が都合がええ姉妹達が、私のそんな様子がお父さまに伝わらないようにしていたらしい。
 私に見惚れ、権力を頼って特別な扱いをしてくれる者だけを回りに置いて楽しく学校生活を送っていたある日、壱鷹いちたかさまが六車むぐるま家の娘と婚約されるんやないかという話が持ち上がった。
 
「どういうことや。」

 お父さまに言われても、どういうことかなんて分かるわけがない。仲良うしてる人たちはいてはるのやろうけれど、私には関係のない話やった。

「ええか。お前が世継ぎの若の許嫁いいなずけや。他の女は皆、お前から若を奪おうとしとる敵なんやで。ちゃんと自分で撃退できるようになり。」

 そうなんか。もう私が許嫁なんか。
 決まってしまっていることにがっかりしながら頷いた。敵を排除せなあかんのか。

「少しお話があるんやけど。」

 面倒やけど、学校で六車むぐるまの娘に声をかける。同級で入学して四年が過ぎていたが言葉を交わすのは初めてや。いつも誰かと遊び、話し、大口を開けて笑っている下品な娘。可愛らしいと評判やが、その評判を出した者は目がおかしいんやないやろか。

「こんにちは、綾女あやめさん。」

 こちらは名前も知らんのに、朗らかに返される。普段共にいる同級の者と共に前に立つと、相手はずいぶん小柄だった。

「あなた、若様に馴れ馴れしい態度を取っているそうね。」
「馴れ馴れしい……?」
「ええ。そう聞いたの。」
「仲がええいうことでしたら合うてますけど、それが何か……?」
「若様の許嫁として、見過ごしていてはいけないと言われたの。私より仲の良い娘が居てはあかんらしいのよ。だからもう二度と若様とは口を聞かないでちょうだい。」
「はあ?」

 当たり前のことを告げただけなのに盛大に首をかしげられて、驚いたのはこちらの方だった。

「え?許嫁?そんなん初めて聞きました。それに、綾女あやめさんより仲の良い子って、学内の全員やと思います。綾女あやめさん、若様に近づかんようにしとるでしょ。皆は普通に挨拶しとるし、誰でも綾女あやめさんより仲良しやと思います。」

 その上、そんなことを言われてはあ然としてしまう。目を見開いていると、周りからくすくすと笑う声が聞こえた。
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