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第四章 西からの迷い人
116 熱烈な愛の証 緋色
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「衝立ての向こうですので、心配いりません。密閉した空間にはなりませんし、手入れの様子は隠れておりますのでご安心ください。」
はい、と頷いて、うつ向いたまま案内されていく壱臣に、半助が付いていった。
「過保護だな。」
「うちにいるときより、半助がぴりぴりしてますね。この国でのこれまでの壱臣の扱いが透けて見えるようですよ。」
「うちでくつろげてるなら問題ない。あいつらの居場所は離宮だろ?」
「過保護ですね。」
「は?」
俺が?馬鹿言うな。
「失礼致しました。改めまして、ご挨拶させて頂きます。店主の斑木行幸と申します。」
「ああ。世話になる。緋色だ。」
目一杯目を見開いた店主が、ざっと膝を付いた。握った左こぶしの上に右手を重ねて持ち上げ、頭を下げるのを黙って受ける。
「大変なご無礼を致しました。」
「構わん。名乗らなかったし、分かりやすい格好もしていない。礼は受けた。もういいぞ。」
「殿下の護衛の泉門院常陸丸です。店主は、お忍びの殿下に自ら挨拶に来られた。その目は確かです。壱臣への対応も好ましい。商品の説明を頼むよ。」
常陸丸の言葉に息を吐いた店主が顔を上げる。
「本日は、どのようなお品をお探しでしょうか?」
「弐角の髪の香りを伴侶が気に入っていたから、購入して帰ろうかと思ってな。壱臣も、弐角から一つ貰ってはしゃいでいたし。」
「使いさしやのに、あんな宝物のように喜ばれて、俺は申し訳なかったです。」
弐角はずっと、壱臣が案内されて手入れを受けている一画を見ている。
「あの、臣の髪を見たときは、父上にすら怒りを覚えました。何で、あんな状態でほっといたんかって。でも、俺が一番あかんのや……。一人だけぬくぬくと守られて、贅沢して……。」
「きっと伸ばし始めて余計にざんばらになったんでしょうねえ。もともとが無茶苦茶に切られていると、伸びてきた長さが揃わなくて、度々切り揃えないことには、乱れた印象を受けるものですから。……でも、やっと伸びてきた髪を切ることなんてできませんものね。」
「俺と同じので良ければ、臣の分は幾らでも買う。」
「弐角さま。それは、あきません。先ほど兄君の分を買うと仰った方がおられたでしょう?あの方が選んで渡されるんです。ここに連れて来られただけで、弐角さまの役割りはおしまいですよ。」
そうか、と弐角が悔しそうに項垂れる。
「髪の美容液を渡すことに、何か意味があるのか?」
「ええ。家族以外の方が美容液を贈ると仰るのは、愛を告げることと同義にございます。もちろん、夫婦間でも伴侶に贈るのは、熱烈な愛の証ですよ。」
俺の疑問に、店主がにこやかに答えた。
ははあ。だから半助は、元の主家筋の弐角の言葉を遮ってまで自分が買うと告げたのか。
壱臣が赤くなっていたから、しっかりと意味は伝わっているらしい。
「このお部屋は、愛しい人に内緒で贈り物を購入したい富裕層の方が訪れるための部屋なのですよ。」
成る程。家に商人を呼んで買うと、家族や使用人にすべて把握されるから内緒にできない訳か。
「弐角さまが内緒で購入なさるときは、是非こちらへ足をお運びくださいませ。」
良い笑顔を見せた店主に弐角がぐう、と変な声を上げて、才蔵が顔を隠しながら、くつくつと肩を震わせていた。
はい、と頷いて、うつ向いたまま案内されていく壱臣に、半助が付いていった。
「過保護だな。」
「うちにいるときより、半助がぴりぴりしてますね。この国でのこれまでの壱臣の扱いが透けて見えるようですよ。」
「うちでくつろげてるなら問題ない。あいつらの居場所は離宮だろ?」
「過保護ですね。」
「は?」
俺が?馬鹿言うな。
「失礼致しました。改めまして、ご挨拶させて頂きます。店主の斑木行幸と申します。」
「ああ。世話になる。緋色だ。」
目一杯目を見開いた店主が、ざっと膝を付いた。握った左こぶしの上に右手を重ねて持ち上げ、頭を下げるのを黙って受ける。
「大変なご無礼を致しました。」
「構わん。名乗らなかったし、分かりやすい格好もしていない。礼は受けた。もういいぞ。」
「殿下の護衛の泉門院常陸丸です。店主は、お忍びの殿下に自ら挨拶に来られた。その目は確かです。壱臣への対応も好ましい。商品の説明を頼むよ。」
常陸丸の言葉に息を吐いた店主が顔を上げる。
「本日は、どのようなお品をお探しでしょうか?」
「弐角の髪の香りを伴侶が気に入っていたから、購入して帰ろうかと思ってな。壱臣も、弐角から一つ貰ってはしゃいでいたし。」
「使いさしやのに、あんな宝物のように喜ばれて、俺は申し訳なかったです。」
弐角はずっと、壱臣が案内されて手入れを受けている一画を見ている。
「あの、臣の髪を見たときは、父上にすら怒りを覚えました。何で、あんな状態でほっといたんかって。でも、俺が一番あかんのや……。一人だけぬくぬくと守られて、贅沢して……。」
「きっと伸ばし始めて余計にざんばらになったんでしょうねえ。もともとが無茶苦茶に切られていると、伸びてきた長さが揃わなくて、度々切り揃えないことには、乱れた印象を受けるものですから。……でも、やっと伸びてきた髪を切ることなんてできませんものね。」
「俺と同じので良ければ、臣の分は幾らでも買う。」
「弐角さま。それは、あきません。先ほど兄君の分を買うと仰った方がおられたでしょう?あの方が選んで渡されるんです。ここに連れて来られただけで、弐角さまの役割りはおしまいですよ。」
そうか、と弐角が悔しそうに項垂れる。
「髪の美容液を渡すことに、何か意味があるのか?」
「ええ。家族以外の方が美容液を贈ると仰るのは、愛を告げることと同義にございます。もちろん、夫婦間でも伴侶に贈るのは、熱烈な愛の証ですよ。」
俺の疑問に、店主がにこやかに答えた。
ははあ。だから半助は、元の主家筋の弐角の言葉を遮ってまで自分が買うと告げたのか。
壱臣が赤くなっていたから、しっかりと意味は伝わっているらしい。
「このお部屋は、愛しい人に内緒で贈り物を購入したい富裕層の方が訪れるための部屋なのですよ。」
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