357 / 1,325
第五章 それは日々の話
7 衣装部屋より 5
しおりを挟む
倉庫に置いてあった白いくまのデザインのパーカーと、白い垂れ耳うさぎのデザインのパーカーを引っ付かんで駆け戻ると、成人さまのお姿が消えている。
えええええ。
こんな少しの間に?と泣きそうになったが、息を切らしている私に涼乃絵さまの笑い含みのお声がかかった。
「そんなに急がなくても待っておりますよ。」
成人さま、待ってないじゃないですか!という抗議の声を飲み込んで、荒い息を吐きながら泣きそうになる。
とりあえずお座りなさい、と促されて座れば、緋色殿下が私の腕の中の服をまじまじと見つめていらっしゃるのに気付いた。
「あ、あの、これが、白くまと垂れ耳うさぎです。」
机に広げると、ほう、と声を上げられる。白くまパーカーを手に取り、これはいい、と常陸丸さまを振り返られた。
「いいっすね。」
常陸丸さまも仕事中の張り詰めた雰囲気はまるでなく、にかっと優しいお顔を綻ばされる。
「白だと赤い目も模様も、より映えるな。」
「ぬいぐるみが白だから喜びますね、きっと。乙羽にも欲しいなあ。」
ん?今なんと?なんと仰いましたか?
「あ、あ、あ、あの。乙羽さまも、こういった可愛らしいデザインはお好きでいらっしゃいますか?」
そういえば靴下は、成人さまとお揃いで履いていらした。何とも言えない可愛さの、潰れたような顔のうさぎが描かれた靴下。
「んん。あー、その、なんだ?俺が着せてみたい、というかなんというか。可愛いだろうなあと思ってな。」
「きっと、お似合いになると思います!」
「あー、そうだな。それに、この布地がとても触り心地が良いだろう?ずっと抱き締めていたら気持ち良さそうだ。」
にこにこと乙羽さまのことをお話になる常陸丸さまは、とても最強の呼び声高い兵士には見えません。乙羽さまへのお好きな気持ちが溢れ出ておりますよ?
「気持ち良いぞ。」
しれっと緋色殿下が仰った。……ずっと抱き締めてらっしゃるんですね。ええ、ええ。本望です!抱いていて気持ちのよい服をお作りしたのです。
私、くまのデザインの服をこの新しい布地で作って良かったあ!
「あの、乙羽さまのものもよろしければお作りして……。」
言いさして気付く。あの布地はまだ新しくて、結構値が張るし生産量もそんなに多くない。私の休日の手仕事でやるには少し、材料費の点で荷が重い。
「あ、いや、うーん。」
でも是非、この服で休日を……。
「代金は払うから、もし良ければ作ってくれないか?成人とお揃いの靴下はものすごく喜んでいたから、喜ぶと思う。」
私の妄想が、乙羽さまにうさぎのパーカーを着せて常陸丸さまの腕の中へとおさめる前に、常陸丸さまの現実の声に呼び戻された。
「は、は、は、はい!」
「常陸丸さん、この布地は、なかなかに値が張りましてよ?」
正式な依頼なら断るなんて選択肢はない。私が喜んで返事をすると、涼乃絵さまが楽しそうにお声を上げられた。
「いいですよ。乙羽の物を買うために仕事してるんだし。俺、割りと稼いでるんですよ、涼乃絵さま。」
「ふふふっ。そうね。赤い目や模様を緑にしましょうか。」
乙羽さまの物を買うために仕事してるんですね……。あまりに自然に仰られるので、聞いていた私が赤面してしまう。
そんな私を笑って見ながら頷かれる涼乃絵さま。それは、業務時間内に作っても良いということですね?ああ、私、頑張ります。仕事が楽しいです!
えええええ。
こんな少しの間に?と泣きそうになったが、息を切らしている私に涼乃絵さまの笑い含みのお声がかかった。
「そんなに急がなくても待っておりますよ。」
成人さま、待ってないじゃないですか!という抗議の声を飲み込んで、荒い息を吐きながら泣きそうになる。
とりあえずお座りなさい、と促されて座れば、緋色殿下が私の腕の中の服をまじまじと見つめていらっしゃるのに気付いた。
「あ、あの、これが、白くまと垂れ耳うさぎです。」
机に広げると、ほう、と声を上げられる。白くまパーカーを手に取り、これはいい、と常陸丸さまを振り返られた。
「いいっすね。」
常陸丸さまも仕事中の張り詰めた雰囲気はまるでなく、にかっと優しいお顔を綻ばされる。
「白だと赤い目も模様も、より映えるな。」
「ぬいぐるみが白だから喜びますね、きっと。乙羽にも欲しいなあ。」
ん?今なんと?なんと仰いましたか?
「あ、あ、あ、あの。乙羽さまも、こういった可愛らしいデザインはお好きでいらっしゃいますか?」
そういえば靴下は、成人さまとお揃いで履いていらした。何とも言えない可愛さの、潰れたような顔のうさぎが描かれた靴下。
「んん。あー、その、なんだ?俺が着せてみたい、というかなんというか。可愛いだろうなあと思ってな。」
「きっと、お似合いになると思います!」
「あー、そうだな。それに、この布地がとても触り心地が良いだろう?ずっと抱き締めていたら気持ち良さそうだ。」
にこにこと乙羽さまのことをお話になる常陸丸さまは、とても最強の呼び声高い兵士には見えません。乙羽さまへのお好きな気持ちが溢れ出ておりますよ?
「気持ち良いぞ。」
しれっと緋色殿下が仰った。……ずっと抱き締めてらっしゃるんですね。ええ、ええ。本望です!抱いていて気持ちのよい服をお作りしたのです。
私、くまのデザインの服をこの新しい布地で作って良かったあ!
「あの、乙羽さまのものもよろしければお作りして……。」
言いさして気付く。あの布地はまだ新しくて、結構値が張るし生産量もそんなに多くない。私の休日の手仕事でやるには少し、材料費の点で荷が重い。
「あ、いや、うーん。」
でも是非、この服で休日を……。
「代金は払うから、もし良ければ作ってくれないか?成人とお揃いの靴下はものすごく喜んでいたから、喜ぶと思う。」
私の妄想が、乙羽さまにうさぎのパーカーを着せて常陸丸さまの腕の中へとおさめる前に、常陸丸さまの現実の声に呼び戻された。
「は、は、は、はい!」
「常陸丸さん、この布地は、なかなかに値が張りましてよ?」
正式な依頼なら断るなんて選択肢はない。私が喜んで返事をすると、涼乃絵さまが楽しそうにお声を上げられた。
「いいですよ。乙羽の物を買うために仕事してるんだし。俺、割りと稼いでるんですよ、涼乃絵さま。」
「ふふふっ。そうね。赤い目や模様を緑にしましょうか。」
乙羽さまの物を買うために仕事してるんですね……。あまりに自然に仰られるので、聞いていた私が赤面してしまう。
そんな私を笑って見ながら頷かれる涼乃絵さま。それは、業務時間内に作っても良いということですね?ああ、私、頑張ります。仕事が楽しいです!
1,480
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる