【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

50 皇太子の息抜き 1  緋色

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緋色ひいろ、待て」

 はああ?
 ただでさえ会議が無駄に長引いて、もう昼を過ぎている。
 皇城の食事処で昼食を摂る気は、さらさら無いというのに。

「一緒に食事をしながら、例の件の詳細が聞きたいんだ。私の執務室へ来てくれるかな。今、断るなら、改めて今日の夕食か明日の昼食に誘うことになるけれど、そちらの方がいいかい?」
「くっそ」
「こら、口調」

 舌打ちは流石に堪えた。これ以上、朱実あけみの小言を増やしたら、一日帰れない。一分一秒でも早く離宮いえに帰りたいのに。

「今日は随分、ご機嫌ななめだね」

 会議場から、朱実あけみの執務室へ歩きながら、俺の後ろの常陸丸ひたちまると自分の後ろの力丸りきまるの方を向いて話しかける。なんだ、そりゃ。俺に直接聞けよ。言わないけど。

「寝不足です。後、雨が酷いんで、傷持ちの調子が悪い日ですね」

 常陸丸ひたちまるが、すらっと答えた。

「寝不足?何かあったの?成人なるひと?」

 珍しくだんまりの力丸りきまるに、ちらりと視線を流してから、人のいい笑みを浮かべたまま朱実あけみが続ける。

「いえ。寝不足の件は壱臣いちおみさんですね。成人なるひとは、寝不足の上に雨が重なって、朝はちょっと目が開かなかったですけど、ちゃんと布団で寝てますんで」
「……壱臣いちおみか。うん」

 廊下で話す内容ではないと判断して、口をつぐんだのだろう。いつでも冷静なその姿勢には感心する。……俺にもそれを求められても困るけどな。
 執務室にはすでに、二人分の昼食が並べられていた。断るなら、とか言っておいて、断らせる気はさらさら無かったじゃないか。
 溜め息を吐きながらソファに腰を下ろすと、張りつけた笑顔を取り払った朱実あけみの顔が見えた。

常陸丸ひたちまる力丸りきまる、今のうちに昼食を摂っておいで」
「え?いいんですか?」

 いつも通り、ソファの後ろに立った常陸丸ひたちまるは、話の続きをするつもりだったのだろう。驚いた声を上げた。

「今、昼食を摂らないと時間が無いからね。会議はまだ終わりそうにないし」

 常陸丸ひたちまるは、ちらっと俺の方を見て、分かりました、と頭を下げる。朱実あけみの護衛は、幾人かいるから交代で食事も摂れるが、俺の護衛は一人だけ。そういうところの割り切りは早い。力丸りきまるも、黙って頭を下げると二人で出ていった。
 もちろん他の護衛は扉の前にいるし、どこかに一ノ瀬いちのせが潜んでいるのだろうが、とりあえず部屋の中に二人だけになると、ふう、と朱実あけみがソファに深く沈み込む。執務室の中での座る姿勢まで気にかけなければいけないとは、本当にご苦労なことだな。

「何?力丸りきまるも絡んでるの?」
「あいつのは知らん」
「えー。力丸りきまるの様子がおかしいときは、だいたい成人なるひと絡みでしょ」
「知ったことか」

 ふふっ、と楽しそうに朱実あけみは笑った。

「まあ、いいや。九鬼くきの件は、ご苦労だったね。西国から丁寧なお礼と、とりあえずの裁きが終わったと連絡をもらったよ」
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