449 / 1,325
第五章 それは日々の話
99 私のためだけの贈り物 三郎
しおりを挟む
人の前に立つことに気が引けて、どうしても顔がうつ向いてしまう。
「おめでとう!」
名前を呼ばれ、祝いの言葉をたくさんの人からもらってなお、呟くようにありがとうと言うのが精一杯で、情けない。
昨年までは、もっと大勢の人の前に座り、きり、と顔を上げて、皆の心遣いをありがたく思う、などと告げていたというのに。
拍手をもらった後にその場に座ると、おめでとう、と言いながら様々な贈り物が手渡される。顔も知らぬ者からも、飴玉一つ、手拭い一枚、ポケットに入る大きさのちり紙一つなど渡されて、常陸丸さまと乙羽さまの連名で、名前入りの上等なペンも頂いた。
「殿下がな、三郎も専用のペンが無いと不便だろって仰ったんだ」
そう言って、お二人で笑っていらっしゃった。つまり、緋色殿下のお心も入っている贈り物ということだ。
なんと、ありがたいことか。
殿下が、思いついた品を簡単に人に渡すわけにはいかないことは分かる。ついこの間まで、自分もそうだったからだ。使い古しの物でさえ、誰かの手に渡れば下賜品となるから、気を付けなければいけない、と小さな頃から言われていた。
……遠い、まるで自分の記憶とは思えないほど遠い話や。九鬼でない私が何を渡したところで、その品に価値など無いというのに。
そして、昨年までの誕生日の宴の日に積み上がっていた贈り物が、何一つ思い出せない。とんでもなく上等な品が、山となって積み上がっていたと思うのだが、そういえばあれらは、どんな物やったんやろうか。自分の手元に届かなかった所をみると、母上やお祖父さまが喜ぶような品が、贈られていたのかもしれない。
手元に贈られる、私のためにと考えられた品々を見ながら、胸にじわりと温かいものが溢れてくる。
私の、私のためだけのプレゼント……。
成人さまが私にくれたのは、手の平に収まる大きさの、見事な絵が描かれている櫛だった。艶々とした黒で塗られた上に、金と銀で花の絵が描かれていて、とても上等な品だ。
高かったんやないやろか。
昔なら気にも止めんようなことが、ふと頭に浮かぶ。
自分でお金を稼ぎ、稼いだお金で買い物をした今なら分かる。同じ用途の品にも様々な値段が付いていて、安い品には安いなりの理由があり、高い品には高いだけの手間ひまや素材の金がかけられているのだと。何も考えずに、渡される物を使っていた頃とは違う。
そして、成人さまができる仕事は限られていて、体力的にも長い時間の労働は難しく、お金を稼ぐのが私たちより大変であることも知っている。
なのに、惜しげもなくこんな高級な品を私なんかに……。
「あり……ありがとう、ございます」
渡される全ての贈り物が嬉しくて、しばらく、櫛を手に動けなかった。
「おめでとう!」
名前を呼ばれ、祝いの言葉をたくさんの人からもらってなお、呟くようにありがとうと言うのが精一杯で、情けない。
昨年までは、もっと大勢の人の前に座り、きり、と顔を上げて、皆の心遣いをありがたく思う、などと告げていたというのに。
拍手をもらった後にその場に座ると、おめでとう、と言いながら様々な贈り物が手渡される。顔も知らぬ者からも、飴玉一つ、手拭い一枚、ポケットに入る大きさのちり紙一つなど渡されて、常陸丸さまと乙羽さまの連名で、名前入りの上等なペンも頂いた。
「殿下がな、三郎も専用のペンが無いと不便だろって仰ったんだ」
そう言って、お二人で笑っていらっしゃった。つまり、緋色殿下のお心も入っている贈り物ということだ。
なんと、ありがたいことか。
殿下が、思いついた品を簡単に人に渡すわけにはいかないことは分かる。ついこの間まで、自分もそうだったからだ。使い古しの物でさえ、誰かの手に渡れば下賜品となるから、気を付けなければいけない、と小さな頃から言われていた。
……遠い、まるで自分の記憶とは思えないほど遠い話や。九鬼でない私が何を渡したところで、その品に価値など無いというのに。
そして、昨年までの誕生日の宴の日に積み上がっていた贈り物が、何一つ思い出せない。とんでもなく上等な品が、山となって積み上がっていたと思うのだが、そういえばあれらは、どんな物やったんやろうか。自分の手元に届かなかった所をみると、母上やお祖父さまが喜ぶような品が、贈られていたのかもしれない。
手元に贈られる、私のためにと考えられた品々を見ながら、胸にじわりと温かいものが溢れてくる。
私の、私のためだけのプレゼント……。
成人さまが私にくれたのは、手の平に収まる大きさの、見事な絵が描かれている櫛だった。艶々とした黒で塗られた上に、金と銀で花の絵が描かれていて、とても上等な品だ。
高かったんやないやろか。
昔なら気にも止めんようなことが、ふと頭に浮かぶ。
自分でお金を稼ぎ、稼いだお金で買い物をした今なら分かる。同じ用途の品にも様々な値段が付いていて、安い品には安いなりの理由があり、高い品には高いだけの手間ひまや素材の金がかけられているのだと。何も考えずに、渡される物を使っていた頃とは違う。
そして、成人さまができる仕事は限られていて、体力的にも長い時間の労働は難しく、お金を稼ぐのが私たちより大変であることも知っている。
なのに、惜しげもなくこんな高級な品を私なんかに……。
「あり……ありがとう、ございます」
渡される全ての贈り物が嬉しくて、しばらく、櫛を手に動けなかった。
1,484
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる