【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

103 すべては己の内にある  緋色

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「う、うちも、ひふ、あ、いや、三郎さぶろうの宴に出たことないし……お互い様ちゃう?」

 お互い様ではないと思うが、ま、いいか。放っておこう。
 俺は、成人なるひとの後ろに座って、成人なるひとを膝の上に抱き上げる。
 あー、落ち着く。
 何も言わずに、ぽてと体重をかけてくるとこがまた、いいんだよな。ま、大した重さはない。抱き込んで頬を擦り寄せると、嬉しそうに右目を細めた。

「あや?」

 俺と成人なるひとをまじまじと見た末良すえよしが、にぱっと笑うと横にいた広末ひろすえの膝によじ登った。

「ん?どうした?眠くなったか?」

 末良すえよしは、にこにこと広末ひろすえの膝の上に立ち上がり、頬を擦り寄せた。

「あひゃ」

 機嫌良く抱きつく息子を抱く広末ひろすえの顔は、だらしなく緩んでいる。あらあら、と少し離れた席で乙羽おとわと話していた斑鹿乃むらかのが、幸せそうに笑った。
 良い日じゃないか。
 もっと周りをよく見ろ、三郎さぶろう。幸せってのは、案外そこら辺に転がっている。

「私が……兄上を祝うことを許して頂けますか?」
「へ?」

 そんなものに、許可も何も要らないだろう?相変わらず、三郎さぶろうの思考はよく分からない。

「あー、三郎さぶろう?ちょっとお前が何言ってるか分からない」

 すっかり膠着してしまった二人の間に力丸りきまるが割って入った。
 いいぞ、力丸りきまる。後は任せた。
 壱臣いちおみの後ろにひっついている半助はんすけが助けの手を差し伸べる訳がないし、何なら、許すわけないだろう、と吐き捨てたいのを我慢している状態だろう。壱臣いちおみは、力丸りきまると同じで、何言ってるか分からないって顔してるしな。

「あのな。人を祝うってのは自分の、祝う人の気持ちなのであって、相手に許可を貰うようなものではないだろう?」

 力丸りきまるの言葉に顔を上げた三郎さぶろうもまた、よく分かっていない様子で首を傾げた。

「あの、しかし、不快に思われると言うんなら……」
「言うんなら、何だよ。祝わないのか?」
「いえ、それは、その……心の中でひっそりと……」
「祝うんだろ?」
「まあ、その、そうです。はい……」
「なら、許可を取るっておかしくないか?そんなこと言われて、嫌ですって言うのもおかしくないか?言うやつがいるか?」

 いるけどな。壱臣いちおみの後ろに。
 まあ、分からんでもない。あり得ないが、赤虎せきとら成人なるひとの祝いの席に来ようとしたら、どんな手を使ってでもたどり着かせないようにするだろう。、嫌だから。

「そんなん、自分の気持ちなんやから、好きにしたらええやん?」
「……はい。そう、ですね、はい。ありがとうございます」

 ぽんぽんと、三郎さぶろうの肩を叩いて部屋から連れ出す力丸りきまるを見ながら、面倒な奴だなあ、と思う。
 仕方ない。
 三郎さぶろうは、市井しせいに放せない。殺すか、目の届く所で軟禁するかしか選択肢がないのだ。九鬼くきのお家騒動は終わったとはいえ、いつでも叛乱方の旗頭と成りうる存在であることに変わりない。
 ある意味、朱実あけみからの預かりものだ。俺の好きにしていいが、殺したら壱臣いちおみが悲しむだろう?壱臣いちおみが悲しんだら、成人なるひとが気にするだろう?わざわざ成人なるひとの憂いの種を蒔いたりしない。俺は、成人なるひとが毎日を楽しく過ごせればそれでいいんだから。
 自分で、気持ちの折り合いをつけてもらうしかないってことだ。
 三郎さぶろうも、半助はんすけも。
 ある意味、そうして生きていくことが、三郎さぶろうにとって何より辛い罰なのかもしれない。
 
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