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第五章 それは日々の話
104 固まる決意 三郎
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「あ。プレゼント置いてきたんじゃねえ?取ってきてやるから待ってろ」
私を部屋へ送ってくれた力丸さまは、私が返事をしようとしたときにはもう、階段を下りていた。
相変わらず、速い……。大して音もしない軽やかな動きは、訓練の賜物。
この離宮の人たちは皆、そうだ。
才能に溢れている上に努力を怠らない。そして、その努力を見せびらかすことも、隠すこともない。自然な形で己を鍛え、それぞれの信念を持って明るく生きている。
朝早くから日課の鍛練をして、書類仕事をこなし、緋色殿下のお出掛け時には必ず護衛として共に出掛ける常陸丸さま。書類仕事をしながらぶつぶつと、俺は護衛なんですけどねえ、と文句を仰られることも多い。そのたびに、私が使い物にならないから負担が減らないのだ、と身を竦めていたが、私が少しは仕事を分担できるようになっても、文句に変わりは無かった。
三郎のお陰で、鍛練へ出かける時間ができた、と喜んで執務室を抜け出す常陸丸さまに、殿下がくっついて行く。結局、殿下の署名がいる書類や、最終確認待ちの書類が溜まって、同じ光景になるのだ。優先順位の仕分けをするのは常陸丸さまなのだから。
私に、こんなに近くで守り、忌憚なく意見を言い、共に遊んでくれるような側仕えはおらんかった。いつも、私ではなくお祖父様を、母上を見ていた。大切なのは私の反応ではない。それを通り越して、如何にお祖父様の目に止まれるか、母上に気に入られるかが大事だったのだ。
殿下の人柄が、良い部下を引き寄せたのやろうな。
その兄上を慕い、いつか更に上にいきたいと鍛練する力丸さま。
料理が好きで、休みの時間にも何か作っていたり、料理の話をしている料理人たち。
利き腕を失ってなお、武官として立つ半助。
離宮の家事を任されながら、有事には見事な武官としての働きを見せる水瀬さん達は、見えない所での鍛練を決して怠ることが無いのだろう。
か細く、儚い見かけの乙羽さまは、緋色殿下が不在の際のこの城の全権を委任されている。あの、小さく細い肩に全てを背負って、一歩も引かずに許可の無い訪問者を追い返した場面を見た時には、衝撃を受けたものだ。
体調を崩しやすい者をたくさん抱えて、医者たちは研究を怠らない。患者の日々の症状と向き合いながら、長く共に生きようと努力をする。
成人さまも、すぐに疲れる体としっかり向き合いながら、できる仕事を探してこなし、勉強をして、未来を見据えて生きている。
「俺は、緋色に会ってから、ずっと幸せなんだ」
にこりと笑って教えてくれたのはいつやったか……。
「ほら、大事なものだろ?」
力丸さまが紙袋に入れて持ってきてくれたのは、そんな人たちが私のためにと考えて購入してくれた宝物たち。
「はい。ありがとうございます」
此処にいてもええと、はっきり形で表されているのにまた、せっかくの宴を台無しにしてしもたんやろか……。
「いつも、すみません」
「ああ。もうお開きだから大丈夫。末良と成人、寝ちゃったから」
ほっと息を吐く。
「お前も、楽しかったか?」
「ええ。とても」
普通に聞いてくれるから、普通に答えることができた。
私の、兄上への罪は、まだまだあるやろう。側にさえいなければ、気付かなくて済むことも、これからどんどん明るみに出てくるに違いない。そのたびに、今日のように悔やみ、悩まなければならない。それは、とても辛くて苦しいけれど。
知らん顔で側を離れていたら、私はこんな宝物を手にすることはできなかった。私を気にかけてくれる人にも出会えなかった。
だから。
私は、これからも、此処で生きていきたい。誰かの、役に立てる人間になりたい……。
私を部屋へ送ってくれた力丸さまは、私が返事をしようとしたときにはもう、階段を下りていた。
相変わらず、速い……。大して音もしない軽やかな動きは、訓練の賜物。
この離宮の人たちは皆、そうだ。
才能に溢れている上に努力を怠らない。そして、その努力を見せびらかすことも、隠すこともない。自然な形で己を鍛え、それぞれの信念を持って明るく生きている。
朝早くから日課の鍛練をして、書類仕事をこなし、緋色殿下のお出掛け時には必ず護衛として共に出掛ける常陸丸さま。書類仕事をしながらぶつぶつと、俺は護衛なんですけどねえ、と文句を仰られることも多い。そのたびに、私が使い物にならないから負担が減らないのだ、と身を竦めていたが、私が少しは仕事を分担できるようになっても、文句に変わりは無かった。
三郎のお陰で、鍛練へ出かける時間ができた、と喜んで執務室を抜け出す常陸丸さまに、殿下がくっついて行く。結局、殿下の署名がいる書類や、最終確認待ちの書類が溜まって、同じ光景になるのだ。優先順位の仕分けをするのは常陸丸さまなのだから。
私に、こんなに近くで守り、忌憚なく意見を言い、共に遊んでくれるような側仕えはおらんかった。いつも、私ではなくお祖父様を、母上を見ていた。大切なのは私の反応ではない。それを通り越して、如何にお祖父様の目に止まれるか、母上に気に入られるかが大事だったのだ。
殿下の人柄が、良い部下を引き寄せたのやろうな。
その兄上を慕い、いつか更に上にいきたいと鍛練する力丸さま。
料理が好きで、休みの時間にも何か作っていたり、料理の話をしている料理人たち。
利き腕を失ってなお、武官として立つ半助。
離宮の家事を任されながら、有事には見事な武官としての働きを見せる水瀬さん達は、見えない所での鍛練を決して怠ることが無いのだろう。
か細く、儚い見かけの乙羽さまは、緋色殿下が不在の際のこの城の全権を委任されている。あの、小さく細い肩に全てを背負って、一歩も引かずに許可の無い訪問者を追い返した場面を見た時には、衝撃を受けたものだ。
体調を崩しやすい者をたくさん抱えて、医者たちは研究を怠らない。患者の日々の症状と向き合いながら、長く共に生きようと努力をする。
成人さまも、すぐに疲れる体としっかり向き合いながら、できる仕事を探してこなし、勉強をして、未来を見据えて生きている。
「俺は、緋色に会ってから、ずっと幸せなんだ」
にこりと笑って教えてくれたのはいつやったか……。
「ほら、大事なものだろ?」
力丸さまが紙袋に入れて持ってきてくれたのは、そんな人たちが私のためにと考えて購入してくれた宝物たち。
「はい。ありがとうございます」
此処にいてもええと、はっきり形で表されているのにまた、せっかくの宴を台無しにしてしもたんやろか……。
「いつも、すみません」
「ああ。もうお開きだから大丈夫。末良と成人、寝ちゃったから」
ほっと息を吐く。
「お前も、楽しかったか?」
「ええ。とても」
普通に聞いてくれるから、普通に答えることができた。
私の、兄上への罪は、まだまだあるやろう。側にさえいなければ、気付かなくて済むことも、これからどんどん明るみに出てくるに違いない。そのたびに、今日のように悔やみ、悩まなければならない。それは、とても辛くて苦しいけれど。
知らん顔で側を離れていたら、私はこんな宝物を手にすることはできなかった。私を気にかけてくれる人にも出会えなかった。
だから。
私は、これからも、此処で生きていきたい。誰かの、役に立てる人間になりたい……。
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