【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

141 陽気な酔っ払いたち  三郎

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 聞き逃しとった宴席があったんやろか、と厨房へ足を向ける。客がおるなら、私が姿を見せたらあかん相手ではないか確認しないと。緋色ひいろ殿下は、好きに暮らせばいい、と言うてくださっているけど、私は生国では、罪を犯した罪人なのだ。

「おう、三郎さぶろう、どうした?」
「あの。本日は宴席のご予定がおありでしたでしょうか?」

 卓上コンロを持った広末ひろすえさんは、わはは、と笑う。

「宴席い?なんだ、そりゃ」
「あの、食堂で……」
「ありゃ、昼間っから酒を飲んでる駄目な大人の見本だからな。真似すんじゃねえぞ」

 また、わははは、と笑って広末ひろすえさんが食堂との境の扉を開けた。

「え?」

 呆然としていると、土鍋を持った村次むらつぐさんが通る。

「もう食べる?」
「あ、いえ、その、どちらでも……」
「じゃ、並べるの手伝って。並べたら終わりだから、酒を飲まない人で固まって一緒に食べよう。飲まない人、そんなにいないけど」
「あ、はい」

 仕事を貰えるのは嬉しい。何もすることがない時ほど、出口のない考えが浮かんでは消えるから。
 
三郎さぶろう、こっちも手伝ってんのか?ご苦労さん。今日は休んで悪かったな」
「あら。お仕事もしてきたのに、こちらの手伝いまでありがとう。疲れないようにね」
「あ、はい」

 常陸丸ひたちまるさまと、その膝の上の乙羽おとわさまに声を掛けられてびっくりする。仲が良いことは知っとったけど、いつもは人前でそんなに分かりやすくくっついていらっしゃることはないのに。
 
「鍋の火、点けますから気を付けてくださいよ」

 言いながら、卓上コンロのスイッチを捻った村次むらつぐさんが、私の腕を引っ張る。

「酔っ払いの相手、真面目にしなくていいから」
「え?」

 酔っ払ってるんか?あれで?言われてみると、常陸丸ひたちまるさまの頬が少し赤い気がするけど、そのくらいだ。もしかして、乙羽おとわさまも?思わず振り向くと、乙羽おとわさまが、お猪口を微妙な顔で舐めていた。
 兄上は、あきらかに赤い顔でとろりと酔っている。半助はんすけを座椅子にしとるなんて、いつもならあり得ない。

「お酒、飲めたんや……」
壱臣いちおみさん、初めて飲んだらしいよ?」
「へええ」
半助はんすけさんが帰ってないうちにあの状態だったから、半助はんすけさんが苛々してる」

 あの様子では、心配になるやろなあ。何というかこう、兄上の可愛らしさが倍増しとる……。

「それをお祖父様がからかってる。楽しそうな顔しちゃってさ」
「へええ」

 兄上と半助はんすけの隣では、荘重むらしげさまも猪口を口に運んでいるようだ。

半助はんすけさんのこと、お気に入りなんだよなあ」
「え?」

 どこをどう見たら、そうなるんやろ?二人の様子を見比べてみても、そうは思えない。普段、話している所を見たこともない。

成人なるひとは殿下に捕まってるし、力丸りきまるは遅番らしいし、俺ら端っこで食べよう」

 村次むらつぐさんは、てきぱきと人がいる辺りのコンロに火を点けて、取り皿やつけだれ、白米を茶碗に入れて持ってくる。

鼓与こと
つぐさま」

 食堂に顔を出した鼓与ことさんを村次むらつぐさんが呼ぶと、嬉しそうに笑って近寄ってきた。

「後で送っていくから、一緒に食べていかないか?」
「はい。喜んで!」

 まだ中学を卒業したばかりの鼓与ことさんは、自宅から通いで仕事をしている。夕食の準備に使用した鍋や食器を洗い終わると、帰宅することが多い。

「時間が早いから、食べ終わってから帰っても、いつもとそんなに変わらないだろ」
「はい、嬉しいです。あ、でも、送りは結構ですよ」
「ん?そうか?」

 立ち上る湯気。良い匂い。誰もが楽しそうに話している。
 こんなに楽しそうな酒の席を見るのは、初めてかもしれない。
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