【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

160 家族  緋色

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「殿下、その辺になされ。成人なるひとがご飯を食べなんだら、わしまで生松いくまつに叱られてしまうわ」

 利胤としたねの言葉に名残惜しく唇を離せば、くたりと力の抜けた成人なるひとがもたれ掛かってきた。
 いやあ、気持ちいいな。
 
「全く。お目付けが誰もおらんと思ってからに、やりたい放題ですな。わしは、正月でも酒を取り上げられとるというのに」

 ぶちぶちと言いながら、コップに注いだその透明な液体は何だ?
 口とは裏腹に、表情はひどく楽しげだ。止めてもらえること、口うるさく言われることが、嬉しいんだろう。
 だからといって、あまり甘えていると、嫌われるぞ。
 利胤としたねの隣へ近寄ると、腕の中の成人なるひとが、うう、と唸った。

「お酒、くさい……」
「どうしても慣れぬか」
「酒を受け付けん体質なのかもな。大人になっても、飲んだら吐く、という奴もいるだろう?」
「臭いに慣れておらぬから嫌がるのかと思っておったが、そういうこともあるか」
「お待たせしましたー」

 からりと厨房との境の戸が開いて、盆に雑煮を乗せた壱臣いちおみが入ってくる。
 その後ろの生松いくまつが、同じく盆に雑煮を乗せて早足で近付いてきた。机に、焼いた餅入りの雑煮を置きながら、低い声が淡々と告げる。

義父上ちちうえは、今日の晩酌はいらぬようだ」
「いや。これは昼の分の先取りでな」
「あいにく、昼の分は元よりありませんでした」
「何を言っておる。正月だぞ」
「正月だから、朝に飲んでいても一杯は止めはしなかったでしょう?」

 何とも滑らかな掛け合いに、くっくっと笑いが漏れる。成人なるひとが嫌がらなければ、俺も朝からちろちろと舐めたいところだった。きっと気分の良い酒になったことだろう。

「ああ。義父上ちちうえ、また飲んでます?」

 小綺麗な格好をしたさいを連れた睦峯むつみねが戻ってきて、目敏く指摘する。堪えきれずに吹いた。

「いや、睦峯むつみね生松いくまつにも言うておったが、これは昼の分の先取りでな」
「昼の分なんて元から無いでしょ?」
「家族だねえ」

 そっくり同じやり取りに笑っていると、俺の腕の中で顔を上げた成人なるひとが、にこにこと言った。

「え?」
「俺、分かった。今のは家族って感じ」
「は、はははは。そうか」

 利胤としたねが大きな笑い声を上げながら、天井を向く。
 目の端に光るものがあった。

「皆、家族ですよ」

 生松いくまつが、成人なるひとに笑いかける。

「前に、成人なるひと乙羽おとわさまが言ってたじゃありませんか。一緒に暮らしてる大好きな人達が家族なんだって」
「うん」
「とっくに、家族でしたでしょう?」
「うん。でも、さっきのがすごく、家族って感じだったから」

 天井を向いたままの利胤としたねと、困ったように口を閉じた生松いくまつ。何か言おうと口を開いて、また閉じた睦峯むつみねの背中を、笑顔のさいが優しく擦っていた。
 医師免許を取るための養子縁組は、かなり良い副産物を生んだらしい。
 
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