【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

178 温もりを知る  緋色

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 利胤としたねの膝の上で、ただ座り込んでいる三郎さぶろうを見る。表情は何とか引き締めているようだが、あきらかに呆然としていた。抱き込まれた体はかちこちと固まって、ひどく抱き心地が悪そうだ。人に体を預けることを知らない反応は、予想通りのものだった。
 利胤としたねの膝に落ちた三郎さぶろうを嬉しそうに見る成人なるひとは、気付いていまい。膝に抱かれた状況を、おんなじだ、とでも思っているのかもしれない。好きなように俺にもたれかかるお前と、緊張して、身じろぎ一つできない三郎さぶろうは、正反対の状況なのだが。
 思えば成人なるひとは、初めて抱き上げた時から、自分を差し出すかのように、体のすべてを預けてきていた。まあ、怪我が酷くて、体を自分で何一つ動かせないほどであったのだから、仕方なかったのだろう。
 戦場から帰って、様々な人間と触れあう時にもただひたすら嬉しそうだったのは、動けない間に、それが気持ちのよいことだと覚えたからかもしれない。
 それなら三郎さぶろうにも、こうして強制的に触れあって、その行為が快適だと覚えさせることから始めなくてはならないんだろう。三郎さぶろうが、その温もりを知っているようには見えない。いや、利胤としたねがそんな小難しいことを考えている訳がないか。あれは、自分のしたいことをしているだけだな。
 俺も昔、泉門院せんもんいん家の人間に、教えてもらった。遠慮なく抱きついてくる青葉あおば不動ふどう常陸丸ひたちまる。小さかった力丸りきまるさえ、俺が抱いていたのではない。力丸りきまるが、俺を抱きしめてくれていたのだと、今なら分かる。俺はあの家で、好きな人の温もりは気持ちいいものなのだと知った。だからこうして、成人なるひとを腕の中に囲う。これが、気持ちいいと知っているから。
 三郎さぶろうは今、その一歩目を踏み出したのだ。
 我に返る前に、重要な話を詰めていくか。

三郎さぶろう利胤としたねの孫として九条の戸籍へ入れるから、九条の跡取りとして、御前会議や、どうしても断れない集会への出席といった仕事を請け負ってほしい」
「は?あ、いえ……。は?」

 まだ、頭は働いていないようだな。いいぞ。

「一条から九条は、建国の際に定められた、国の法などの最終決定機関でな。毎月、御前会議が開催される。文官等が全てを細かく定めた後の、最後の確認だけで終わる月もあれば、会議参加者からの提案を出席者で考察し、何日も話し合いが続く月もある。考察した上で何か決定されれば、その内容を纏めて文官たちの会議に落とす。そんな仕事だ。特に血筋にはこだわっていないし、世襲というわけでもない。ないんだが、いつしか、しっかり教育した息子や養子に継がせることが当たり前となって、今の形に落ち着いている。必ず九人、と定まっている訳ではないようだから、ついこの間まで一条は空席であったし、今は二条と三条が空席だ。まあ、いずれ誰かがその椅子に座るだろう。九条も、それでいいと利胤としたねは言っていてな。自身は軍部の仕事で忙しく、会議を欠席することも多かったから、自らの代で一度、家を閉じる心積もりであったようだ。だが、今、そうも言っていられなくなった」

 目を白黒させている三郎さぶろうにたたみかける。
 うっかり頷いてくれねえかな?
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