【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
548 / 1,325
第五章 それは日々の話

198 ほろ酔い  緋色

しおりを挟む
「あれ?もう帰られます?」

 待機している護衛たちの部屋は隣にある。常陸丸ひたちまるを呼べば、すぐに出てきて驚いた顔を見せた。確かに例年、朱実あけみに捕まって帰りが遅くなってしまうことが多い。こんな時間に呼ばれるとは、予想もしていなかったか。

成人なるひとがいるから早いかな、とは思ってましたけど、予想よりも早かったっすね。寝てるんですか?」
「んーん」

 腕の中で、目をつぶって大人しい成人なるひとが返事をする。まだ、寝ていなかったか。

「ん?どうした?酒でも飲んだか?」
「んー。飲んでない。頭痛い……」
「失礼します」

 その言葉を聞いて、後ろにいた生松いくまつが、そっと成人なるひとの額に触れる。右目を開かせ、頬に触れ、首すじを確認して、

「もう少し、お水を飲みましょうか」

 と、言った。振り返って、後ろの人物にも笑いかける。

緋椀ひまりさまも、水を飲んでください」

 作治さくじに肩を抱かれる形で移動していた緋椀ひまりは、移動中に落ち着いたらしく、もう大丈夫です、と眉を下げる。
 素早く水を運んできた常陸丸ひたちまるが、二人を見比べて首を傾げた。

「何してたんです?」 
「じゃんけん」
「は?」
緋椀ひまりとじゃんけんしたら、疲れた」
「…………」

 しばらく考えた常陸丸ひたちまるは、

「いや。分かんねえ」

 と、唐突に言った。うるさい奴だな。

「車出してくれ。皆で帰るぞ。緋椀ひまり作治さくじもうちで泊まるか?」
「あ、それは有り難いです」
「え?え、でも……」
「最近、いい香油が手に入るようになってな。お前らに渡そうと思っていた」
「なんと。それは是非」
「は?はあ?こ、こんなところで、な、な、何を話して」
「ははははは」

 ははっ。
 いい反応だ。

「程よく酔っ払ってますね」
「ふふん。そんなに飲んじゃいねえよ」
「はいはい。酔っ払いは皆、そう言うんですよ」
「わしは、まだまだいけたんだがなあ」
「十分ですよ、義父上ちちうえ
「年をお考えください」

 九条家も、それなりに過ごせたようでなによりだ。

「無事か、三郎さぶろう

 意外とけろりとしているな。

「はい。困ったことに、普段の生活より、どうすれば良いかが分かったというか、特に何ということもなく……」
「はははっ。さいは?」
「緊張はしましたけれど、美味しいお料理を堪能致しました。睦峯むつみねもおりますし」

 医師二人が、はあっと溜め息を吐く。

「料理の味かあ」
「修行が足りませんね」

 こんなもん、年に一度、ほんの数時間のことだ。気にすんな。
 
利胤としたね。いい日だな」
「殿下!わしは幸せ者じゃ!」

 腕の中の成人なるひとが、ほんの少し重くなる。寝たかな。

「で、なんでじゃんけんが疲れるんです?」

 七条の護衛に、緋椀ひまりたちがうちへ帰る旨を伝えて歩きだすと、常陸丸ひたちまるが尋ねてきた。

「ははははは」

 きっと成人なるひととじゃんけんをしたら、お前も真剣になるだろうな。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...