【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

200 皆、知っている  緋色

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「殿下。今日早かったっすね。朱実あけみ殿下は大丈夫だったんですか?」
「さあ?」
「…………。しゃべってないんですか?」
「挨拶はしたぞ」

 ふうっ、と常陸丸ひたちまるが溜め息を吐く。

「いいんですか?」
「何が?」
「いえ……」

 別に、俺が避けてる訳じゃない。もともと、俺から朱実あけみに話しかけることなんて無かった。朱実あけみが話してくるから、返事をしていただけだ。今日は、話しかけてこなかったから、そのまま帰ってきただけ。

「……だよな?」
「へ?」
「いや」

 いや。そうか。
 腕の中の成人なるひとを見て、気付く。
 俺は、朱実あけみのそばに極力、成人なるひとを置きたくない……?

「駄目か?」
「うーん。今日は話すべきでしたかね」
「…………」

 ああ。
 あの日だ。
 成人なるひとを使って、帝国の発信者を見つけたい、と朱実あけみが言った日。あの日に俺は、はっきり選んだんだ。
 もし、俺の大事な者たちに害を為すなら、例えこの国が相手でも、俺は俺の大事な者たちを護るために抗う、と。
 その時にきっと、朱実あけみへの忠誠は少し欠けた。それが後ろめたくもあり、けれどどうしても、譲れなかった。
 そしてその時に、たぶん気付いた。朱実あけみの中で成人なるひとの命は、誰よりも軽い。朱実あけみが大切に思ってくれているおれの大切なものだと、朱実あけみはきっと分かっていないのだ。
 成人なるひとがまだ、戦闘人形ドールとしての性能を持っていた頃は、如何にして利用しようかと思っていたんだと思う。
 では、頭の機械を外し、戦闘人形ドールとしての性能を失った今は?
 あの時、利用できなかったことで、帝国の後処理が長引いていることは間違いない今、朱実あけみの中での成人なるひとの価値など何も無い。使うこともできなかった処分品ごみ
 だから、朱実あけみの近くに成人なるひとを居させたくなくて逃げてきた……。

「気付きたく、無かったな……」
「殿下?」

 だが、俺はとうに答えを出している。
 上辺だけの笑顔で話すことなどもう、無いんだ。

常陸丸ひたちまる。俺は成人なるひとが一番大事だ」
「知ってますけど?」
利胤としたね。俺は成人なるひとが好きでな」
「もちろん、知っとるよ。わしも、成人なるひと緋色ひいろ殿下も好きですぞ」
緋椀ひまり……」
「知ってますよ。成人なるひとが殿下よりもっと、殿下のことが好きなこともね」
「俺の愛も負けてないと思うんだが?緋椀ひまり
「な、な、何を言ってるの、作治さくじさん」

 やっぱり皆、知ってるよな?
 朱実あけみ
 皆、知ってるんだよ。
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