【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

2 朱実との対話  緋色

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「呼んでいないのに来てくれたのは、初めてじゃないかな」

 まさか、初めてなんてことはないだろう。相変わらず、物言いが大げさだ。
 わざと先触れも無しに来たが、まあ、俺がここへ向かっていることが伝わっていないわけもなく、にこやかに出迎えられた。朱実あけみの執務室は、朱実あけみのもの以外に机や椅子は四つほど置いてあるのだが、呼ばれて訪ねたときに、仕事をしている文官を見たことはほとんどない。だいたいが、護衛の一人二人が部屋の前に立っていて、俺と常陸丸ひたちまるがたどり着くなり、どうぞ、と扉を開ける。

成人なるひとが皇族居住区に入れなかったと聞いた」
「ああ。……あの子が、入れなかったとお前に泣きついたかい?」
「はあ?」

 あいつが泣きつく?そんなこと、してほしいもんだな。

緋色ひいろ殿下」

 うるさいぞ、常陸丸ひたちまる。俺は冷静だ、それなりに。
 部屋の中に護衛として立っていた弥壌みづちが、ぴくりと体に緊張を走らせている。流石にこんなところで、武力による兄弟喧嘩なんてしない。本人同士でやれば俺が勝つ。。俺は、本気の勝負に手加減なんて失礼な真似はしないからな。結局、護衛同士の戦いになるとすれば、こちらは一人。あちらは、必ず二人以上置いている上に、一ノ瀬いちのせも隠れている。俺と常陸丸ひたちまるだけでは、、それなりに痛い目をみるだろう。
 つまり、結果が見えていてつまらない。

「あいつは、先触れ無しで行って悪かった、と反省していただけだが」
「そう」

 淡い笑みを顔に乗せたまま、朱実あけみが言った。

「まあ、座って」

 立ち話でも構わないのだが、言うことを聞いておかなければ、話に応じてもくれないことは知っている。
 座るなり、隣の部屋から侍従が出てきて茶を置いていった。あっという間の早業だ。
 朱実あけみってせっかちだよな、実は。

「あの子は、冬の間中熱を出しているだろう?何かそういうことになる、病気の種でも持っていたら大変だ。今は、妻や我が子にとって本当に大切な時期だからね。少し、うちには来させないほうがいいだろうと侍医と話し合っていたところで訪ねた来たものだから、通達が間に合わず申し訳無かった。すまなかったね、緋色ひいろ

 申し訳なさそうな顔で謝ってくるその様子は、何かを誤魔化そうとしている風ではなく、謝罪も本心からのもの。ただ、謝る相手が間違っている。朱実あけみが謝る相手は成人なるひとだろう?
 連れてこなかったから、仕方ないか……。

成人なるひとの発熱や不調は、今までさして働いていなかった内臓がしっかりと動き始めた証だと、うちの主治医が言っている。人に伝染する類いのものは無いそうだ。実際、ずっと共にいる俺に、何の不調も起きていない」
「うん、そうだね。けれど今は、赤璃あかりは妊娠中だ。普段の状態とは違うのだから、細心の注意を払いたい。分かってくれるかな?」

 まあ、確かに。
 成人なるひとがしょっちゅう体調を崩しているのは事実でしかないし、赤璃あかりが特別に注意の必要な時期であることは分かる。

「分かった。成人なるひとには伝えておく。だが、お互いの体調が良いときくらいは会わせてやってくれ。赤璃あかりだって、成人なるひとに会えなきゃ寂しいだろう?」

 朱実あけみがふっと笑ってお茶を飲んだから、俺の言葉は了承されたのだと思った。
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