【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

4 違和感  緋色

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「お手紙を出したんだけど」
「ああ」
「お手紙を持っていってくれた水瀬みなせがね、許可が下りませんでしたって言ってた」

 成人なるひとがそう言っても、まあ、あちらは妊娠中だから色々あるんだろう、としか思っていなかった。寒さがもう少し緩むまでは、成人なるひとをそんなに外出させたくなかった、ということもある。

「そうか、残念だな」

 そんな会話を何度かしていても、おかしいな、という思いはいだかなかった。
 母上や赤璃あかりからの連絡もなく、成人なるひとも毎日、仕事をしたり、勉強をしたりと忙しくしている。
 俺は、誕生日会までにたこ焼きを上手く作れるようにと隠れて練習していたし、仕事は相変わらず、途切れることなく回ってきた。というか、増えた。それも、いつ子どもが生まれるか分からないから、なるべく赤璃あかりの側にいてやりたい、と朱実あけみに言われると弱い。
 更に、子どもが生まれた後の様々な行事のための時間を作っておかなければいけない、と言われると、確かに、直系の第一子の誕生ともなれば色々あるんだろう、と思わなくもない。生まれたら、少しでも長く妻と子どもの側にいる時間を作るために、仕事を前倒しでしておきたい、なんてことまで言われたら、引き受ける仕事も増えてしまう。
 しまいにはやり取りが大変で、朱実あけみの執務室の机を一つ借りることになってしまった。朱実あけみ直属の文官だという者三人と、初めて挨拶をした。
 しばらくは、仕方ないか、と手伝っていたが、子どもはなかなか生まれない。城へ通う日数が重なってくると、朱実あけみの侍従が、丁度よい頃合いを見計らって茶や軽食を出すことにも苛々した。
 頃合いなど気にしなくてよいから、成人なるひとの出す茶が飲みたい。うちの料理人たちの作った料理が食べたい。村次むらつぐの失敗作でも構わない。
 何があっても、昼には離宮うちに帰って、うちで昼ごはんを食べる時間は確保した。
 休みがない週もあった。朱実あけみが休まなければ、俺も朱実あけみ直属の文官も休めない。あれ?赤璃あかりの側にいたいからと仕事を早めにしているくせに、週に一度の休みも取らないのか、と気付いたのは、休みである日曜が終わってから。流石に、おかしくないかと抗議して休みは確保した。これ以上成人なるひとと離されるようなら、そこの侍従部屋に連れてくるぞ、と言ったら、あっさりと仕事量は減った。
 なんなんだ、一体。
 
「予定日を過ぎたけど、どうなんだ?」
初産ういざんは遅れがちらしい。予定日なんて、だいたいの目安だからね」

 はじめは、そんな風に余裕だった朱実あけみも、十日遅れた頃には少し焦っていた。

「あまり遅れると羊水が濁り始めるそうだ。二週間以上遅れるようなら危ないと言われたよ」

 せっかちな朱実あけみの子とも思えない。早く出てきて、俺を離宮いえに帰してほしい。
 ようやく生まれた時は、ずいぶんとほっとした。
 寒さはすっかり緩んで、暖かい陽射しが降り注ぐ春の日だった。
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