【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

26 大きな胃袋が欲しい  壱臣

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 出てくる料理を片っぱしから味見した。少しずつしか口をつけていないのに、お腹がふくれて悔しい。
 殿下や常陸丸ひたちまるさんは、成人なるひとくんや乙羽おとわさんの口にも食事を運びながら、自分の食べたいものをもりもり食べる。ほんの少ししか食べられない二人の分は、もとから注文していないらしい。茶碗蒸しやらすき焼きのお肉やら、食べたいものを好きに持っていかれても気にした風もなく、二人が苦手そうな食べ物を片付けていく。
 半助はんすけも、出てくる料理を片っぱしから食べているのに涼しい顔をしていて羨ましい。荘重むらしげさまも、普通に平らげていっている。
 ああ。もっとようけ食べられるお腹が欲しい。
 
壱臣いちおみも、一人前は厳しかったな。女将、明日は四人前でいい」
「畏まりました。余分に欲しいものは仰ってください」
「ああ。茶碗蒸しだけは、人数分頼む」
「畏まりました。今日は急拵えで、申し訳ございません」
「いや、構わん」

 緋色ひいろ殿下には、筍と蛤の炊き込みご飯を前に、うちの箸が止まってしもたことは見えていたらしい。無理をするな、と言われてから、本当に一口ずつの味見に変えたのに、悔しい。
 それにしても、美味しかったな。ちょっと、くせのある野菜が多くて、春やなあって感じがした。
 急拵えで、この料理。すごいなあ。見た目も美しかった。
 ああ、もしかして、成人なるひとくんの好物を揃える暇が無かったってことなんかな。昼に連絡してすぐここに来たんやから。成人なるひとくんの好みに合わせて上等な懐石料理にするんは手強そう。それが間に合わず普段の料理が食べられたんなら、それはそれで運が良かったな。

半助はんすけ、それ食べやすい?」
 
 諦めて一度箸を置き、女将が半助はんすけに出してくれた台を見る。成人なるひとくんが、家でもたまに使っている机の上に置く膳のようなものを半助はんすけにも持ってきてくれたのだ。身を屈めなくても食べられるので、便利。

「ああ。食べやすい」
「良かったな」
「ん」

 とりあえず、お茶を啜る。
 あかん。もう入らん。

「お腹いっぱい」

 成人なるひとくんも?

「今日はデザートはいらないのか」
「んー?デザート何?」
「まだ来てないな。飯も間に合わなかったか」

 ご飯ものって後から出てきたときにはもうお腹がふくれて、入らなくなってること多いよね。

「明日はご飯を、なるべく早めに持って参ります」
「ああ、頼む」

 運ばれてきたデザートは、大福だった。今までの飾られた美しい食べ物たちと比べると首を傾げるほど、普通の大福だ。
 けれど。
 失礼します、と女将が小さなナイフで二つに切ると、真ん中にいちごが一つ、ごろりと入っていた。
 わ、と全員の声が上がる。
 あんの真ん中にいちご?え?なんで?
 頭の中で味の想像がつかず、皿を持ち上げてまじまじと眺めてしまった。

「いちご、食べる」
「いちごだけ食べたら駄目だろ。いっぺんにかじるもんじゃないのか」

 成人なるひとくんはいつの間にか、緋色殿下の膝の上に座って、一緒に大福を手にしている。

「食べる」

 小さな口がかぷりと上手に、もちとあんといちごをかじりとった。成人なるひとくん、果物好きやから躊躇せんな……。
 
「いちご、ちょっと酸っぱい。でも美味しい」

 皆の視線を気にした風もなく、よくかんで飲み込んだ成人なるひとくんが言うと、乙羽おとわさんもかぷりといった。

「あ。好き」

 へえ、と呟いた常陸丸ひたちまるさんが、皿に置かれていた半分を一口で食べてしまう。

「おお。旨い。殿下、いけます」

 それは、甘いものが苦手な緋色ひいろ殿下でも食べられる味ってこと?殿下もそれを聞いて、一口で放り込む。ためらわないなあ。
 
「悪くないな」
「だろ?壱臣いちおみ、余るなら半分くれ」

 半分を、向かいに座る常陸丸ひたちまるさんに渡しながら、わくわくと一口かじる。
 まず広がるのはいちごの酸味。その後にあんの甘さ。最後にはもちもちとした大福の仄かな甘味。

「これ……!これって、うちに帰って作ってもええですか?」

 思わず興奮したうちの声に、女将が驚いた顔で頷いた。

「ええ。その、材料の詳細などはお教えできませんが、この形の菓子を作るなとは申しません」
「ありがとうございます!殿下、もう帰って試作したい!」

 感動しながら、もう一口。
 ぶはっ、と殿下と常陸丸ひたちまるさんが吹き出した。

「まだ初日だぞ。帰ってたまるか。紙にでも書いておけ。まだまだ先は長い。食べるものは山とある」

 ああ。世の中には、美味しいもんがありすぎる……!
 
 
 
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