【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

52 気付き  朱実

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「おはようございます、皇太子殿下」
「あ、ああ。おはよう」
「こちら旅行の土産です。この部屋の皆様でお分けください」

 何の感情も読み取れない顔の緋色ひいろは、滑らかに挨拶をして土産を私に手渡し、包拳礼までしてきびすを返した。そのまま、割り当てられた席について机の上の書類に目を通し始める。
 そのやり取りに幾分呆然としてしまった私の手の中には、ぞうの形のカステラが十ほど入った可愛らしい箱。成人なるひとの選んだものなのだろう。成人なるひとはぞうが好きだから。
 知りたくもない情報が浮かんで、苦々しい気持ちになった。あれのことを知りたい訳じゃない。だというのに、私から離れている時の緋色ひいろの行動を探らせると大半はあれが関係しており、知りたくもない情報が身のうちに溜まってゆく。
 それにしても緋色ひいろの、なんと冷静なことだろう。
 本日は登城するようだと一ノ瀬いちのせより報せを受けてから、どのように私に話しかけてくるのか、さぞかし怒っているだろうと身構えていたというのに。
 昨日、緋色ひいろと会った赤璃あかりや母上は、緋色ひいろはあなたに対して怒ってもいないわ、と言っていた。とはいえ、いざ私を前にしたなら怒りも再燃することだろうと考えていたのだ。
 共に夕食をとりながら、二人に緋色ひいろの様子を尋ねても、成人なるひとに聞いたのだと言う楽しい旅行の話ばかりで全くらちがあかない。
 手妻てづまの舞台を観に行ったとか、九鬼くきの領地では壱臣いちおみが料理をしていたとか、そんなことはとっくに知っているのだ。
 父は、二人が話す、成人なるひとから聞いたという旅の様子を楽しそうに聞いていたが、あなたの方にも報告書は届いているのだから、知っている内容だっただろうに。何が楽しいのか分からない。確かに、報告書には無い話もたくさんあったようだが。
 動体視力が良すぎて手妻てづまのタネが見えてしまった成人なるひとの話など、何とも迷惑な客だというだけではないか。力丸りきまるも見えた?見えたときに嬉しくなって、二人で、どうなっていたのかを説明しようとしたら、乙羽おとわ三郎さぶろうにちょっと怒られた?でも、屋敷に帰ってから、さっきの教えてって言うんだよ?知りたいのか知りたくないのか分かんないよね?って言ってたのよ。
 ふふふ、可愛いこと。
 ほんとね。
 随分と楽しんだようだね。
 その話に緋色ひいろは登場していない。ずっと共に居たのだろうに、緋色ひいろとの関わりの話が何も語られていないのだぞ。何故、それが聞けるように話を誘導しないのか。家族である緋色ひいろの、旅の間の様子が知りたいのではないのか?

緋色ひいろもきっと楽しかったことだろう」

 話を聞いた父の感想の意味が本当に分からない。タネが知れてしまうような舞台を観て、緋色ひいろが楽しめるものだろうか。
 動物園のようなところへ出掛けて、楽しいと感じるような男だったか?
 私は、動物園になど興味はない。新婚旅行のたまたまの空き時間に、赤璃あかりが行きたいと言うから足を運んだだけだった。赤璃あかりが楽しいならば付き合おうと……。
 あ。
 ああ……。
 そうか。
 成人なるひとが楽しいから、緋色ひいろはそこへ行くのか……。 
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