【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第六章 家族と暮らす

67 そうだ、寝よう  朱実

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十時ととき。部屋へ戻る通路の人払いをお願い」 
「畏まりました」

 赤璃あかりの指示に、ずっと扉の横に控えていた侍従の十時とときが返事をする。一礼すると、自身の横に置いていたワゴンの上の湯飲みの蓋を外して私に渡し、扉から出ていった。
 こちらを見ていた目には、気遣う色が浮かんでいた。
 指示をしていないのに渡された湯飲み。何と珍しいことがあるものだ。私は過度に世話を焼かれたり、先回りされることをあまり好まないから、侍従たちにはよくよく言い聞かせてある。私の侍従は、基本、指示があるまで動かない。そういえば、入るなと申し付けた小部屋の中に居たことも、珍しいことだった。
 渡されたのは、白湯さゆ……?
 湯飲みを持っていない方の手を生松いくまつに取られ、錠剤が置かれた。

「痛み止めです。城の医師の方が処方したものの方がよろしければ、呼んで参ります。とりあえず、水分はお取りになってください」
「お水、大事」

 成人なるひと……。ずいぶんと詳しい。解熱剤のことやら、怪我の時の休み方、病人には水分が重要ということまで、よくよく生松いくまつに言い含められているらしい。まあ、しょっちゅう寝込むから、その度に丁寧に説明を受けているのか。
 そういえば、皇城の医師も最近は、今の体の状態からそれに対する対策まで、やたらと丁寧に説明をする印象がある。私は、滅多と体調を崩したり怪我をすることはないからはっきりと分かる訳ではないが、妊娠中の赤璃あかりに対応していた大国おおくに白威しろいは、彼の父や祖父と違って腰の低い印象だった。
 皇城の医師からは、治してやっている、という意識が垣間見えていたことが多かったから、少し驚いたものだ。彼を主治医とする、と言った赤璃あかりには、先見の明があったのだろう。
 丁寧に説明を受けると、納得の上で治療が受けられる。必然、治りは早いのだろうな。
 と、なると、この痛み止めは飲まねばなるまい。
 錠剤を口に放り込んで白湯を飲む。体が求めていたようで、白湯がとても美味しく感じられた。
 お水、大事……。成る程。覚えておくか。

緋色ひいろ。後は頼む」
 
 何故かすんなりと言葉が出た。

「は?」
「うん。疲れた。休む」

 赤璃あかりが、ほっと笑う。私はそんなに体調が悪かっただろうか?いや、眠りが浅かっただけだ。それでも、特に支障はなかった。仕事にミスも無かったはずだ。

「皇太子殿下、妃殿下。いつでもお帰り頂けます」

 十時とときの声に、ゆっくりとベッドから降りた。靴下は無くても良いか、と靴だけを履く。

「陛下への連絡は?」
「お伝えしてあります。後ほど、陛下の執務室へ来るようにと緋色ひいろ殿下への言伝てを預かっております」
「帰りたいぃ」

 ソファで頭を抱えてしまった緋色ひいろのもとへ成人なるひとがととと、と寄って頭を撫でる。
 あれが、夢うつつに気持ちの良かったものだな。緋色ひいろはすっかり甘やかされているらしい。
 
朱実あけみ。ひたすらベッドで寝ましょ」

 赤璃あかりが私の手を引く。
 それは、いいな。

「一緒によ」
「ああ」
朱音あかねも」
「ああ」

 一先ず、寝よう。
 小部屋の中の生松いくまつに笑顔で見送られ、執務室の常陸丸ひたちまるには力強く頷かれ、仕事の手を止めた部下たちも頷くように頭を下げる。
 護衛の二人は少し離れて付いてきて、部屋の前に立った。

「ごゆっくりお休みください」

 と、頭を下げる。
 十時とときは、部屋の扉を開けて押さえていたが、私たちが入った後に付いて入り、深々と頭を下げた。

「どうかお側に置いてください」
「ああ」

 寝るだけだが?と思いはしたが、私を気遣っているのだろうことが察せられて、遠ざけることはできなかった。
 甲斐甲斐しく上着を脱がせてくれる手に身を委ねながら、これも悪くない、と回らない頭で考えていた。
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