【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

5 重ねた時間を知る  緋色

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 ひー、ひー、と泣き始めた成人なるひとに、やっぱりか、とぼんやり思う。部屋は暗い。夜と朝の、ちょうど間の時間だろう。
 今日は、吉野よしのの葬式に参列して、成人なるひとはたくさん泣いた。成人なるひとだけでは無かった。参列していた、ほとんどの者が泣いていた。離宮から俺たちと共に行った者も、泉門院せんもんいん家から参列した者も、近所の者も。様々なすすり泣きの声が響いて、葬式らしい葬式だった。
 泣くのは体力がいるのだと言ったのは、誰だったか。成人なるひとは静かに泣いていたが、疲れたらしい。就寝時間は早かった。ぼんやりとしている成人なるひとを風呂に入れて、髪を拭いている間に寝てしまった。食欲も無かったが、仕方ない。食べただけましだ。
 乙羽おとわは、何も食べ物を受け付けなかった。だがあれでも、泣いているだけましだった。乙羽おとわは限界を迎えると、ぷつんと生きるための活動を忘れてしまうから。常陸丸ひたちまるにしがみついて泣いていたから、まだ大丈夫な筈だ。ちゃんと生きようとしている。
 ひー、ひー、と小さな悲鳴のような泣き声。すっかり懐かしい、夜泣き。
 すぐに目が覚めるたちではないのに、成人なるひとの泣き声にだけ反応できるのは、どういう仕組みだろう。
 ぼんやりとしながらも、手を伸ばしかけて引っ込める。触れても大丈夫かと、半分寝ながらも思った自分は偉い。
 以前は、触れれば更に成人なるひとの様子は酷くなった。触れられることを恐れ、布団の感触にさえ怯えて。
 ただ、距離をおいて側に居るしかなかった苦い夜が甦る。予測も付かず始まる夜泣きに、一番怯えていたのは俺だった。自分にも、恐ろしいものがあるのだと知った。最も大切な者を、側にいて助けられないほど、嫌なことはない。自分の無力を思い知らされるから。
 苦いものを飲み込んで身を起こそうとすると、すがり付くように、細い右手が伸びてきた。

成人なるひと?」

 小さな右手が、ぎゅっ……と、俺の寝間着を掴む。

「う。ふ……。ひっ……」

 泣いている。
 起きていない。
 けれど。
 そっと背中に触れると、強張りが少し緩んだ。
 いいのか?
 触れて?
 恐る恐る、いつものように抱き込むと、ひー、ひー、と何度か漏らしてから、静かになった。ぽん、ぽん、といつもの調子で何度か背中を叩く。
 やがて、いつも通りの寝息が聞こえてきて、はあああ、と深い深い溜め息を吐いた。
 強張って、息を詰めていたのは、俺の方だったらしい。
 夜泣きが、止まった?
 夢の中でも、俺に、すがってくれた?
 こんなときだが、とんでもなく嬉しかった。体を重ねた時間が、触れあった時間が、成人なるひとの無意識のうちにも入り込んで、俺を頼ることを覚えたのだと思うと、すっかり幸せな心地だった。
 だから、常陸丸ひたちまる。朝寝坊したのは、許してほしい。
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