【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
781 / 1,325
第七章 冠婚葬祭

70 成人のためなら動くか  緋色

しおりを挟む
「相手の出す手を見る?」
「うん、そう」

 事も無げに、成人なるひとが言う。成人なるひとに遊びを教えると、どこかズレて伝わることが多いが、じゃんけんはその最たるものだ。
 うちではすっかり手を見ることが定着してしまい、目隠しをしていないと順番決めも出来やしない。最近では決め事は主に、あみだくじになってしまった。
 度々、成人なるひとにじゃんけんを挑みに来る灯可とうか見可みかは、学校ではどうなっているのだろうな。無敵だな、たぶん......。そのうち学校で、カラクリに気付く奴がいたら、将来有望だから声をかけておけ、と言っておこう。
 
「手を......」

 そうしてもう一度、弐角にかくの婚約者と役立たずの護衛とのじゃんけんが始まる。カラクリが分かったのちに、護るべき主とあいこ三回とは、お飾りにも程があるだろう。俺は、常陸丸ひたちまるにほとんど勝てないぞ。ムカつくことには、力丸りきまるにも成人なるひとにも勝てん。これは、素早さに勝る者が強い傾向があるからな。一概に、総合的な強さを表せる訳ではない。利胤としたねなどは、実戦では無類の強さだが、じゃんけんは苦手だ。とはいえ、全く鍛えた経験のない壱臣いちおみ睦峯むつみね相手に負けることは無い。
 一つの目安にはなる。
 しかし、面倒くさいことに首を突っ込んだな。弐角にかくが放っておいたのだから、知らん顔しておけばいいものを。

壱臣いちおみ。飯はどうする?」
「んー。どうしましょ?作りますか?」
「いや。作りたいなら止めんが、俺は何でもいい。お前の味見したいものがあれば、それを運ばせるぞ。目当ての店などは無いのか?」

 昼までは仕事をして、昼飯も食べてから出てきたので、こうしてのんびりしていたら、あっという間に夕飯を考える時間になっている。丁度いいから、壱臣いちおみを外に出してから、少々手荒い真似をしようか。

「あ。ほなら、ちょっとうち、気になってるとこがあって。割と近くに行列ができてた店があったんやけど、お品書き見てきてもええですか?麺類のようやったし、えらい並んでたから、運んでもらえんかもしれませんけど」
「なら、後で皆で並びに行けばいい」
「おお。麺?うどん?きつねうどんかな。俺、好き」

 成人なるひとが乗り気なら、もう決まったようなもんだ。

「あの......」

 ずっと黙って控えていた侍女が、おずおずと声を上げる。

「うどんではなく、お蕎麦の有名な店でございます」
「おそば」
「へええ。ええなあ、お蕎麦の名店」
「おそば」
「黒い麺だ。うどんより細い」

 そういえば、蕎麦は久しく食べていない。柔らかくて、もちもちした感触の好きな成人なるひとに合わせて、最近はうどんばかりだった。蕎麦は味に癖があるし、麺の茹で具合によっては硬いこともあるから、まだ成人なるひとには食べさせていなかった。

「黒い麺。格好良い」

 格好良いかどうかは知らんが、成人なるひとが興味があるなら、試してみるのもいい。

壱臣いちおみ。そこの侍女に案内してもらって、ちょっと調べてこい」
「はい、行ってきます」

 身軽に立ち上がった壱臣いちおみが、侍女に向かって頭を下げる。

「ついでに、この辺りの評判のええ食べ物屋を紹介して貰えたら嬉しいです。よろしくお願いします」
「あ、あ、あ、頭をお上げください。わ、わ、わたくしなどに、何と勿体ない......」

 侍女は、次期当主と同じ顔の男に頭を下げられて、慌てふためき平伏する。ふむ。こちらは問題なさそうだ。

「あ、あの、若様......」
しま。殿下のご依頼や。兄上のこと、頼んだで」
「は、はは」
半助はんすけ、任せた」
「は」

 壱臣いちおみと共に立ち上がっていた半助はんすけが、軽く包拳礼をして頭を下げ、三人が連れ立って出て行く。
 さて。
 俺は、荘重むらしげ成人なるひとほど優しくない。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...