【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

87 働くということは  椿

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「侍女を雇いたいというなら城の方に問い合わせてみてもよろしいですが、それなりの金子きんすはお持ちですか?」
金子きんす……」
「ええ。城の侍女を雇うとなれば、それなりの賃金を払わねばなりますまい。あなたの、こちらでの下働きの給金ではとても賄えないものです。となれば、もともとの手持ちが必要になるでしょう。それを如何ほどお持ちなのかと思いまして」

 こちらに来るに当たって、特別にたくさんの荷物は持ってくることはできなんだ。
 仕事着は支給する。住み込みとなるから、食と住についても心配はいらないと言われ、その旨を急ぎ戻った実家で伝えたら、当座の必需品のみを詰め込んだ鞄を持たされた。

「くれぐれも失礼のないように」

 と、言い含められ、何とも言えない顔の両親に見送られて来た。若様から話は聞いた、と父は言っておったが、どのような申し送りであったものか。母は、ぐ、と口を引き結び、まるで泣くのを堪えているようであったことを思い出す。

「手持ちは、それほどない」

 もともと、自分で金を持ち歩いて買い物をしたりはしない。買いたい品があれば商人を自分の居所へ呼べば良いのだし、その後の支払いなどは侍女が行うのだから。……侍女が。
 何も。何も、侍女の世話になどなっておらぬつもりであった。
 朝は、自ら目を覚まして着替え、護衛たちの鍛錬に参加し、汗を流す。姫は何ともお強い、日々の努力の賜物でしょうなあ、との言葉を背に、その後の身支度も、大して侍女の手を煩わせずに整える。姫様は、ちいともお世話をさせてくれはらへん、との言葉を聞いて、何をそんなに手を煩わせることがあるんかと呆れておったくらいや。
 食事の際の諸々の世話も断っておったつもりであった。
 そやけど、ちいともお世話をさせてくれはらへん、との言葉を聞いたのは、どんな状況やった?
 鍛錬で汗に濡れた長い髪を洗って、それを手ぬぐいで拭いてもらい、香油を塗り込んでもろとる時やなかったやろか?適当に括ってくれたらええ、と言うたら、複雑に編み込みたい侍女が、そう言うたんやなかったやろか。
 髪の手入れをしてもらうんが当たり前すぎて、それも自分でせんなんことにも気付いてへんかった?
 食事の際も、いつの間にか適温の茶が添えられることは当然で。それを出す者がおることに、考えが及んどらんかった。

「手持ちが無ければ、人を雇うことは難しいでしょうね」
「お金、ちょっとしか無かったら、まずはご飯だよ」

 お金が無い……?私が?
 生まれてこの方、そのような状況であった事などなかった。仕え始めた橙々だいだいさまが、買い物の際、しきりと金額を気にしたり、値切ろうとされることが、少々恥ずかしいと思うていた。主家は今から財政を引き締めて、しっかりとしたまつりごとを行いはるんや、と父が言うておったから、橙々だいだいさまに指摘することは無かったけれど。

「お金……」

 何故、仕事をするのか。私にとっては、意に沿わぬ相手と結婚などしとうない、と逃げた先。自分に向いた役割りがあったから、と始めたこと。給金を貰うためやなんて、そんな……。

「お仕事休んだら、その分お給料貰えないから、早く元気にならないと!」

 笑顔の成人なるひとさまが、当たり前のようにそう言わはって。
 私は、軽い目眩の中で、この方も、働いてるんや、と酷く驚いていた。
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