【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

89 気付き  椿

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「姫様。何とも、おいたわしい」

 届けてもろうた昼食は雑炊で、水瀬みなせさんはそれを置いて、すぐに部屋を去った。私はまた、だるい体を必死で起こして、ぼんやりと雑炊を口に運ぶ。朝も食べとらんかったが、全ては入らんかった。ただ、いつも食べとるものと変わらぬ味がして、とても食べやすかった。トイレだけは必死で済まして、着替えをしたいと思いつつまた横になった。
 そして目を覚ますと、見慣れた顔があった。私が、子どもの頃から側に仕えてくれていた坂寄さかきが、眉を下げてそこにおる。いつもの様に着物姿ではなく、ここの使用人たちと同じような白い襟付きのシャツと、長い、ふわりと広がるスカートといった出で立ちであった。

坂寄さかき……」
「はい、姫様」

 額に、ひんやりと冷えた布が乗せられ、それだけで、心が落ち着くようやった。ただそれだけの事をしてくれる手の、なんと有り難いことか。

「何ぞ、御用はございますか?」

 先回りして、何もかもされてしまうことが煩わしく、私が何か言うまで、手は出さんといて、と命じたことが懐かしい。今、こんなにも人の手を欲しており、私が何をして欲しいか察してもらいたい、と思っている。

「ああ。……汗を拭いて、着替えたい」
「畏まりました」

 額の布を避けて、背中に手が添えられ、体を起こして貰えるのが有り難かった。先程まで一人で、とても辛かったから。だから、自然とその言葉は口にのぼった。

「ありがとう」
「え」

 と、坂寄さかきが、私の背に手を添えたままで固まる。何ぞ、おかしな事を言うたやろか。

「その。いえ……はい」

 坂寄さかきが、微かに笑むのが見えて安堵する。服を脱いでいると、失礼します、と退室した坂寄さかきが、大きなバケツを下げて帰ってきた。

「湯を、もろうて参りました」
「ああ」

 拭いてもらうと、さっぱりとする。

「こちらへは、どうやって?」
緋色ひいろ殿下が、使者を送ってくださりました」

 お優しいことです。 
 お前もな。
 夢うつつに聞いていた、殿下と水瀬みなせさんの会話。
 そうや。
 水瀬みなせさんは、あんなに忙しいのに、合い間にしょっちゅう、私の様子を見に来てくれとった。やから、目を覚ましたタイミングで話ができた。水もご飯も貰えた。
 私は、一度でも感謝を伝えたやろうか。いや、伝えとらんのやないか。何一つ一人でできん私の側に、淡々と付き添ってくれとった人に。
 成人なるひとさまに聞かれた、できた?の意味を、唐突に理解した気がした。自分の世話ができたか、と聞いておられたんやないか?心配して、おられたんやないか?
 色々と、至らぬ自分に落ち込んで、結局次の日も丸一日、布団の上から動けんかった。
 
 
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