【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

94 その人のための服  成人

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さいさま?」
文明ぶんめい。どうした?」

 さいが、泣いている。衣装を着て、鏡の前でぽろぽろと涙をこぼしていた。
 衣装室の男の人と睦峯むつみねが、慌てている。

「分からない……分からないのです。ただ、この……この色の衣装を身に付けたら、急に、胸がいっぱいに、なって……」

 さい睦峯むつみねの衣装は、白い所が少ないくらい全体に、薄い青色の糸で刺繍がされていた。薄い、本当に薄い青。青は、帝国の王家の色だ。敵国の色だから、この国では、服の色にはあんまり使われることはないんだって聞いた。戦争中は特に無かったって。
 でも、クレヨンの中には青はあるし、色鉛筆の中にもある。なんなら、色んな青がある。濃い青、薄い青。呼び名も色々。薄い薄い青は水色だ。赤よりいっぱいあるかもしれない。だって、空は青いし、川も青いから、青がないと絵が描けない。
 赤もそうだけどね。服に鮮やかな赤色を使っていいのは皇族だけだけど、絵は描いていい。火とか、りんごとか、赤い物はいっぱいあるし。だから、絶対使っちゃ駄目って訳でもない。模様が青いのは見たことある。でも、服の色として、全体が青ってのは見たこと無かった。
 すごく青い訳じゃない。水色だけど。でも。

「いいだろ?」

 緋色ひいろが言った。

「いい!」

 本当にいい。とても綺麗だ。とても、とてもさいに似合う。

「使用したことの無い色味でしたが、こう、薄い色の糸を重ねて出したお色というのは、とても上品で素敵ですねえ。さいさまに、この上なくお似合いです」

 さいの衣装を合わせていた衣装室の男の人が言った。

「うん。綺麗だ」

 睦峯むつみねが笑いながら言って、さいの涙を拭いた。

「綺麗だよ、文明ぶんめい
「はい……。はい!」

 くるぶしまである上着の、皆と少し違う襟元の詰まった形も、さいにすごく似合うんだ。

緋色ひいろ殿下。どうしてなのでしょう。涙が、止まらなくて……」

 ぐすっとさいが鼻を鳴らしながら言う。

「嬉しい時でも、人は泣くんだって」

 悲しい時だけじゃないんだよ。俺はもう、知っている。
 さいのこの涙は、きっと嬉しい涙。


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