【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

97 私の楽しい日々  祈里

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「はあああぁ。この手縫いの目の、何て綺麗なことでしょう。とてもお上手ですね、坂寄さかきさん!」
「恐縮です」

 坂寄さかきさんの静かな返事に、我に返る。思わず声が大きくなってしまった。いけないいけない、と深呼吸する。それでも、顔はだらしなく、にこにこと緩んでしまう。
 ひと息に四組もの婚礼衣装の注文を受けて、衣装部は忙しくて仕方がない。予算はたっぷりあって、期限もはっきり区切られている訳ではないそのお仕事は、もちろん、楽しいばかりなのだけれど、人の時間は有限で、眠る時間を極限まで削っても、なかなかに仕上がりが見えない。
 期限を区切られていないとはいえ、七条しちじょう作治さくじさまのように、あんなにお楽しみになされて、ちょくちょくと成人なるひとさまと共にお顔を出されていると、早く仕上げて差し上げたいなあ、と思うのだ。
 あまり眠る時間を削ると、気まぐれに衣装部に遊びに来られる成人なるひとさまに目の下の隈をみつかって、強制的に仮眠室で寝かしつけられてしまう。ベッドに寝るようにと言われ、ベッドの横に膝をついた成人なるひとさまの細く小さな片手が、ぽんぽんと優しく背中を叩くのだ。
 それはそれで至福の時間ではあるのだけれど、昼間に寝かしつけられると非常に困る。夜に皇城に残ることは禁止されていて、使用人寮への持ち帰りも、基本的には禁止されているので、結局仕事が終わらない。
 涼乃絵すずのえさまは、どうしてもこの部分の刺繍を仕上げたい、ときちんと理由を説明すれば、持ち帰りに目をつぶってくださるし、涼乃絵すずのえさまも、ごく稀に持ち帰られることがあるけれど、やはり家ではお休みしてほしいわ、とあまり良いお顔はなされない。
 だから、私たちは夜にはしっかり寝て、昼間にこの衣装部の部室で頑張るのが正解だ。大切な方々に、心配をかけない為にも。
 成人なるひとさまが、ひょっこりと連れてこられた坂寄さかきさんは手縫いの名手で、ミシンでは仕上げられない箇所の多い婚礼衣装の本縫いに、大変貢献してくださっている。流石は、成人なるひとさまのご紹介くださった人物。
 はじめこそ、着物しか縫ったことがないとの事で、生地の違いに戸惑っていらっしゃったけれど、すぐにコツを掴まれて、その後は怒涛の速さで縫い進めていらっしゃる。その縫い目の揃い具合に、感心することしきりだった。

「少し、休憩なさいませんか?」

 まだこちらに来て数日の、坂寄さかきさんの顔色が悪い。これでは、成人なるひとさまでなくとも、心配になってしまう。

「いえ、お気遣いなく」
「適度な息抜きは、仕事の効率を上げるそうですよ?」

 声を掛けつつ、温かいお茶を机に置いたが、手を止める様子はない。
 ため息をついて、自分の仕事に戻ろうとすると、部室の扉が叩かれた。あの叩き方は……!

成人なるひとさま、いらっしゃい!」
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