【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

100 もー  成人

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「あの。ひめ……椿つばきさまは、恙無つつがなくお過ごしでしょうか」

 俺の命令に従って、ベッドに横になった坂寄さかきが言う。

「つつがなくって何?」

 調べる暇も無いし、今、お返事がいりそうだったので、坂寄さかきにそのまま聞き返す。
 ベッドの横に膝をついて、ぽん、ぽん、と坂寄さかきの背中を叩いてる。絨毯がふかふかで、足元が気持ちいい。いいな、これ。皆が寝るのに関係ないとこだけど、お部屋が全部気持ちいいと寝やすいんだな、きっと。
 うーん。坂寄さかきの背中、固い。緊張して、体がこちこちだ。これじゃ、寝られそうにない。

「あ、あの。すみません……。ええと、その。問題なく、ご無事でいらっしゃいますでしょうか……」

 ああ、うん。
 椿つばきなら、とっくに元気になっている。知ってるよね?坂寄さかきが看病して、元気になったんだから。

「元気」

 知ってるはずなのに、何でかなーって思ったけど、ちゃんと教えてあげた。聞かれたら答えないとね。俺は、口に出したつもりで、言葉が口から出てないことがよくあるんだって。力丸りきまるが言ってた。ちゃんと口にしないと分かんないぞー、って。
 常陸丸ひたちまるもはじめの頃、ずっと緋色ひいろに言ってたなあ。成人なるひとに、声を出させろって。言わないと分からないことが、いっぱいあるんだって。
 分かるからいいって言ってた緋色ひいろも、いつからか、声を出さないと駄目だ、って言うようになった。知らない内に俺の息が止まっていたら、と思うと背筋が冷えるんだって。
 言ってるつもりじゃ駄目だ。言わなくても分かる、なんてことは無い。話しても通じないってことは、世の中にたくさんある。だから、俺たちはたくさん話そう、って緋色ひいろは言った。俺は、緋色ひいろが話す声が大好きだから、たくさん話すのは賛成。緋色ひいろも、俺の声が好きなんだって。
 ふふ。
 嬉しい。
 だから俺は、ちゃんと喋るよ。

「あ、いえ。そうではなく……。その、護衛のお仕事の為の訓練は、順調に進んでおられますでしょうか」
「ん?護衛?」
「は。姫様は、その為にこちらに来られたのでございましょう?」

 んーん。違うよ。
 あ。

「違うよ」
「へ?」

 あ、坂寄さかき、そんな声、出せるんだね。

椿つばき、弱いから護衛はできない。橙々だいだいの命を護れない」
「そ、そんな訳がございません!姫様は、お強い!姫様は、橙々だいだいさまに選ばれたのです!姫様は、常に努力なさっておられた!」

 坂寄さかきが、がばっと起き上がったので、俺はすっと後ろに下がる。そのくらいは、簡単。前より動けなくなっても、できることはたくさんある。俺は、力も速さも、椿つばきより無いかもしれないけれど、椿つばきを簡単に倒せるよ。
 そういうこと。

椿つばき、下働きのお仕事、頑張ってるよ?」
「し、した、ばたらき……?」

 寝なさいって言ってるのに。もー。
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