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第七章 冠婚葬祭
115 恥の在り処 椿
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腰まで伸びていた母の美しい髪が、肩口で消えている。歳をとって、少し量の少なくなっていた父の髪が、ざんばらに顔に散っている。いつも綺麗に纏められていた坂寄の髪の纏められていた部分が消えて、こちらも顔に残りの髪が落ちていた。
そして、自分の顔にも、感じたことの無い毛先が触れる感触……。
「あ、あああああ」
思わず声が上がった。
目の前に、髪が落ちている。
私の。坂寄の。
腰を浮かした時にはもう、ことは済んでいた。
水瀬さんの手に、父と母の髪。六車の護衛二人は、年若い料理人と、事務仕事を主にしとる、と言っていた水瀬さんのええ人に押さえられて、髪を切られていた。
若様の護衛の才蔵が何かを弾いた音が響いて。水瀬さんと共に働いとることの多い鼓与という女の子と、見覚えのない、妙に印象の薄い女性が、才蔵を相手に隙なく構えていた。
頭が真っ白になって、父と若様が話す言葉が入ってこない。なんで。なんでや。なんで。
「許す」
若様の声。
何を?こんなことした者を?許すんか?そんな阿呆な。
「若様……。何故……」
「椿。防げなんだな」
「あ……」
「殿下は、きちんと温情をくださった。見てみ。本気なら、俺の髪も無かった」
防げなんだ?
当たり前や。相手は、緋色殿下の精鋭で……。
いや。違う。
動いてない。
強そうなお人は誰も。
さっき、確かめたやないか。若様に、見てみ?って言われる前に。私は、気付いとった。戦闘要員は動いていない。あの、強い覇気を出した護衛二人は、殿下方の後ろから、ただこれを見とる。
気配を何も感じさせずに茶を配った年嵩の男は、もう一人、よく似た中年の男と並んで、ただこれを見とる。
水瀬さん。そう。私の髪を切ったのは水瀬さんや。側に立っとった。姿も見えとった。
掃除をして、洗濯をして、使用人服で屋敷を整えている、人……。
殿下のひと声で動いた。
私は、動けなかった。
腰を浮かした所で髪を失う気配がして、あまりの事に硬直しとる一瞬に、坂寄の髪も、父上の髪も母上の髪も消えとった。あそこで私が水瀬さんの小刀を弾いとれば、坂寄と父上と母上の髪は無事やったんやろか。私だけが、髪を失って……?
そんな。
そんな……。
「こんな恥を晒して、とても生きてはゆけぬ……」
「は」
若様が、わらう。
「それは、臣への侮辱か?」
臣……。壱臣さま?若様の、兄君。あの方の、髪、は……。どんな……。
「臣は、生き抜いた。俺は兄を誇りに思うとる。そなたが恥じるべきは、髪をなくしたことやない。武で生きると豪語しながら、今、一歩たりとも動けなんだことや」
そして、自分の顔にも、感じたことの無い毛先が触れる感触……。
「あ、あああああ」
思わず声が上がった。
目の前に、髪が落ちている。
私の。坂寄の。
腰を浮かした時にはもう、ことは済んでいた。
水瀬さんの手に、父と母の髪。六車の護衛二人は、年若い料理人と、事務仕事を主にしとる、と言っていた水瀬さんのええ人に押さえられて、髪を切られていた。
若様の護衛の才蔵が何かを弾いた音が響いて。水瀬さんと共に働いとることの多い鼓与という女の子と、見覚えのない、妙に印象の薄い女性が、才蔵を相手に隙なく構えていた。
頭が真っ白になって、父と若様が話す言葉が入ってこない。なんで。なんでや。なんで。
「許す」
若様の声。
何を?こんなことした者を?許すんか?そんな阿呆な。
「若様……。何故……」
「椿。防げなんだな」
「あ……」
「殿下は、きちんと温情をくださった。見てみ。本気なら、俺の髪も無かった」
防げなんだ?
当たり前や。相手は、緋色殿下の精鋭で……。
いや。違う。
動いてない。
強そうなお人は誰も。
さっき、確かめたやないか。若様に、見てみ?って言われる前に。私は、気付いとった。戦闘要員は動いていない。あの、強い覇気を出した護衛二人は、殿下方の後ろから、ただこれを見とる。
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水瀬さん。そう。私の髪を切ったのは水瀬さんや。側に立っとった。姿も見えとった。
掃除をして、洗濯をして、使用人服で屋敷を整えている、人……。
殿下のひと声で動いた。
私は、動けなかった。
腰を浮かした所で髪を失う気配がして、あまりの事に硬直しとる一瞬に、坂寄の髪も、父上の髪も母上の髪も消えとった。あそこで私が水瀬さんの小刀を弾いとれば、坂寄と父上と母上の髪は無事やったんやろか。私だけが、髪を失って……?
そんな。
そんな……。
「こんな恥を晒して、とても生きてはゆけぬ……」
「は」
若様が、わらう。
「それは、臣への侮辱か?」
臣……。壱臣さま?若様の、兄君。あの方の、髪、は……。どんな……。
「臣は、生き抜いた。俺は兄を誇りに思うとる。そなたが恥じるべきは、髪をなくしたことやない。武で生きると豪語しながら、今、一歩たりとも動けなんだことや」
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