【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第七章 冠婚葬祭

117 ある意味、強い  緋色

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 ああ、笑った。成人なるひとに連れて行かれる弐角にかく才蔵さいぞうの顔が面白かった。弐角にかくは、あそこで黙って引っ張られていく胆力が好ましい。
 忙しいだろうに、しっかりと攻撃を防いだ辺り、鍛錬も怠ってはいないようだ。久しぶりに、俺も体を思い切り動かしたくなってきた。昼寝後に、弐角にかくに付き合わせるか。泊まれる部屋を準備してしまおう。おやつも夕飯も出せば、あいつの事だ。帰れまい。ついでに利胤としたねに、才蔵さいぞうが来ていることを教えておこう。鍛えがいがある、と気に入っていたからな。
 さて、仕事に戻るか。
 ひらりと軽く手を振って合図をすれば、部屋の中の一ノ瀬が音もなくそれぞれの仕事場に戻って行く。応接室の扉は成人なるひとが開けたままだったから、一人ずつ頭を下げて出て行く姿が見えた。
 ああ。佐鳥さとりはそこに残るのか。そうか。すい、と気配は薄れていくが、部屋を出る気は無さそうだ。姿を晒しての攻撃は才蔵さいぞうに防がれたが、気配を感じさせずに動くことに関しては一番だと称される一ノ瀬。自分の得意の形を作れていたら、弐角にかくの髪の半分ほどは持っていけただろう。小刀を弾かれて悔しそうにしていたが、そんなに本気で弐角にかくの髪を落とす気は無かったから、勘弁してやってくれ。
 そういえば、部屋を出る鼓与ことも、不貞腐れた顔であった。才蔵さいぞう相手に、そこまで本気にならなくて良い。もし髪が短くなって、その事であいつらに余計な仕事が増えたら、遊ぶ時間が減るだろ?
 もちろん、手加減は不要。防げなかったらそれまでのことだ。

「気をつけて帰れ」

 項垂れる面々に声をかける。六車むぐるまの奥方は、半分気を失っているような状態か。睦峯むつみねを呼ぶか?考えながら立ち上がろうとすると、娘から声が上がった。

「帰れません。こんな姿で、帰れません」
「そうか」

 とはいえ、ここに置いておく義理もない。役に立つわけでなし。
 あ。

「そうだ。そこの侍女は、結局どうする。とりあえず、うちの者の結婚式の衣装が仕上がるまでの期間限定だが、衣装は縫うのか?」
「ぜひ!」

 はっと顔を上げた女が、先ほどまでの逡巡は何だったのかという俊敏さで返事をした。

「ぜひ、お願い致したく……!」

 そうして、包拳礼の形で深く頭を下げる。

「そうか。なら、住む場所も今、準備されていることだし、そのままそこから通うが良い。衣装部の部長には連絡しておこう」
「ご温情、誠に有り難く……精一杯、勤めさせて頂きます」
「ああ。まあ、後はあちらで聞け」

 あれだけ、姫様姫様と騒いでいたものが、髪一つでこれか。もうお世話はいいのか?そんなことより、その短い髪を旧知の者に見られぬことの方が重要なのか。
 俺には分からん。

「私も!私もこちらに置いてください!帰りとうない。帰りとうないんです」

 ある意味、心臓の強い娘だな。
 離宮うちには絶対置かん。
 

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