【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

5 キレる?  成人

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「名字無しは、口のききかたも知らぬと見える。礼儀を弁えよ」
「あんたさあ、本当に習う気あんのか?」

 俺もそう思ったから、うんうん頷いてしまった。人に教えてもらえるの、いいよ。俺は、自分で調べるのも好きだけど。でも、ちゃんと知ってる人の話を聞くと、調べたよりもっと分かる。自分で調べてから聞くのが一番いいんじゃない?俺は、今はそうしてる。お勧めだよ。

「当たり前だ。そうでなければ、誰がこんな……」

 偉そうな見習いは、はっと口を閉じて俺を見た。
 母さまが気に入った料理の作り方を教えてほしい、って城の厨房から言ってきたんだよね?うちは、教えてあげてるんだよね?
 俺は、首を傾げて見習い料理人を見返した。

「俺、名字無いけど」

 口のききかたも知らぬ、って怒られちゃうかなー。本当に知らないしな。緋色ひいろも他の人も、俺が口を開いてしゃべっただけで花丸って言うから、しゃべり方まで考えてなかったよ。……そのうち、頑張るね。

「は?え?」
「あ。緋色ひいろも無いって。広末ひろすえはあるよ」
「あ、あ……はあ。いや、え?は?」
「ほんまやねえ。名字無しは、成人なるひとくんと緋色ひいろ殿下や」

 壱臣いちおみが、あははと笑う。広末ひろすえも、違いねえって笑った。お茶は、人数分準備されて、厨房の大きな机に並べられた。

「朝から突っ立ってるだけで疲れたやろ。お茶でも飲み?」
「突っ立ってるだけ?」
「せや。作り方を見に来たんやからて、なかなか作業の邪魔になる位置で、突っ立ってはるんやで」
「ふっ、ははっ」

 広末ひろすえが笑う。
 ん?あれ?

「メモをしとる様子も見えんし」
「ははっ。そうだなあ」
広末ひろすえさんの動きを邪魔するとか、ほんま失礼」

 拳をぐっと握る壱臣いちおみって、初めて見たかも。何となく、椅子に座ってても届く位置にあった壱臣いちおみのお尻を、ぽんぽんしてしまう。
 もしかして壱臣いちおみ、怒ってる?壱臣いちおみが?

「ぶっ、ははっ。村次むらつぐがキレかけてたから休ませたのに、壱臣いちおみさんまでこれじゃ、あんた、救いようがねえな。ははは」
「キレる?」
「ああ、まあ、その、なんだ。この人をここから追い出そうとしかけたんだ」

 ああ。今、半助はんすけがやろうとしてるみたいな?

「したら駄目?」
「駄目だなあ。一応、陛下からの頼まれごとだから、きちんとしねえとな」
「半助、駄目だって」

 あ、止まった。良かった、良かった。

「ん?半助さん?いたんですか?」
「半助、おったん?」
「いるよ?」

 おうちの中では護衛はもういらないんだけど、俺の行き先が厨房だから一緒に来たよ。壱臣いちおみに会いたいもんね。
 でも、そうかあ。広末ひろすえの邪魔する人は困るなあ。

「違う人に来てもらう?」

 お城の料理人の誰かができるようになればいいんだから、俺、そうやって言ってこようか?

 
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