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第八章 郷に入っては郷に従え
25 緋色の見本は 成人
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「恐れながら、緋色殿下に申し上げます」
八代は、いつでも話していいのに。でも、こういう手順が大事なんだな。こういうのちゃんとできる事が、お城では大事。ここは、お城の厨房なんだから、できなきゃ駄目なんだ。
「おう。構わんぞ」
「無記名のため、茶色と書いた者が分かりません。名乗り出たら解雇されると分かっていれば、名乗り出ることもないかと」
「はは、そうだったか」
「ええ。それに、ひといきに四人も解雇されたら、少々作業に障りがあります」
「ふっ」
緋色が笑う。
「少々なら構うまい。それに、もしかしたらクビは三人かもしれんぞ?今クビにした公里が一枚、茶色と書いている可能性がある」
「ははあ。なるほど……」
「……っ」
今クビにした公里が、口を開きかけて閉じた。おお。よく止まったな。そりゃそうか。八代みたいにちゃんとしなかったから、牢にお泊まりすることになったんだもんね。ここでまた口を開くようなら、本当に、お城の厨房に相応しくない。
「あ、もう一人。はっきり分かる奴がいたわ。茶色の皿の作成者。あれもいらんだろ」
「安次嶺?」
「そんな名だったか。まあ、それだ」
「……そうですね。残念です……」
八代は、目を伏せて呟いた。
「お前が置いておきたいというなら、考えてやらん事もない。どうだ?」
「いえ。彼は、私の期待を裏切ったばかりか、帰ってきて後、離宮の厨房の根も葉もない悪評を撒き散らしていました。字の読み書きも碌々できないから、指南書を読めないし書けないのだとか、屑野菜も捨てずに使う貧乏根性丸出しで見ておれないだとか。それを聞いた時は、何を見て何を習ってきたのか、と頭が痛くなりました」
「へえ」
緋色が、薄く笑って相づちを打つ。この笑い方は、朱実殿下に似てるやつ。こういう時の緋色は、任せるって適当に言わない。ちゃんと最後まで相手の言い分を聞く。聞いて、考え、答えを出す。必ず、答えを出す。だから、逃げられない。絶対に。
もしかして緋色の見本は、朱実殿下なのかな。そうかも。だって緋色は、朱実殿下みたいに笑って、朱実殿下みたいに答えを出すから。大切なものの為に、何かを迷わず切り捨てる所は似てるのかもしれない。
「お、恐れながら、も、申し上げ、申し上げます」
震えながら、安次嶺が声を上げた。ちゃんと言えたね。それができたら、話していいんだよ。
「言ってみろ」
「はっ。わ、わ、私は、見たままを述べ、述べた、述べたのみ、で、悪評など、では……」
「へえ。それで?」
「は、はいっ。ひ、広末は、指南書を開くことすらなく、碌々書きもしません。それは事実です!壱臣もです。書いた所で、あれの字は、のたくったような形で読めたものではない。やはり、それなりの学のある者以外に調理師免許を渡すものではないのです!で、殿下の政策は間違えておられる。免許は、名字なしに軽々しく渡してよいようなものではないのです!」
言い切った安次嶺は胸を張って、緋色を真っ直ぐ見ていた。緋色は、さっきの顔のまま。薄く笑って、黙っている。
はあ、というため息は八代から。はは、と笑うのは村次。
「教えてやれ、八代。知っているのだろう?」
「は、殿下」
八代の低い声。
「存じて……おります。広末には、指南書などいらぬのです」
「は?」
何人か、は?って言った。
「あれは、あの天才は、見て食べれば作れるのです。なんなら、見本より美味しく……。指南書など、いらぬ。入荷した食材を見て、食べる者を思い浮かべて、思いついた品を作れる。そんな者に、詳しい指南書などいるものか」
アイスクリームもたこ焼きも、作ってって言ったら作ってくれたんだ。すごいよね、広末。
八代は、いつでも話していいのに。でも、こういう手順が大事なんだな。こういうのちゃんとできる事が、お城では大事。ここは、お城の厨房なんだから、できなきゃ駄目なんだ。
「おう。構わんぞ」
「無記名のため、茶色と書いた者が分かりません。名乗り出たら解雇されると分かっていれば、名乗り出ることもないかと」
「はは、そうだったか」
「ええ。それに、ひといきに四人も解雇されたら、少々作業に障りがあります」
「ふっ」
緋色が笑う。
「少々なら構うまい。それに、もしかしたらクビは三人かもしれんぞ?今クビにした公里が一枚、茶色と書いている可能性がある」
「ははあ。なるほど……」
「……っ」
今クビにした公里が、口を開きかけて閉じた。おお。よく止まったな。そりゃそうか。八代みたいにちゃんとしなかったから、牢にお泊まりすることになったんだもんね。ここでまた口を開くようなら、本当に、お城の厨房に相応しくない。
「あ、もう一人。はっきり分かる奴がいたわ。茶色の皿の作成者。あれもいらんだろ」
「安次嶺?」
「そんな名だったか。まあ、それだ」
「……そうですね。残念です……」
八代は、目を伏せて呟いた。
「お前が置いておきたいというなら、考えてやらん事もない。どうだ?」
「いえ。彼は、私の期待を裏切ったばかりか、帰ってきて後、離宮の厨房の根も葉もない悪評を撒き散らしていました。字の読み書きも碌々できないから、指南書を読めないし書けないのだとか、屑野菜も捨てずに使う貧乏根性丸出しで見ておれないだとか。それを聞いた時は、何を見て何を習ってきたのか、と頭が痛くなりました」
「へえ」
緋色が、薄く笑って相づちを打つ。この笑い方は、朱実殿下に似てるやつ。こういう時の緋色は、任せるって適当に言わない。ちゃんと最後まで相手の言い分を聞く。聞いて、考え、答えを出す。必ず、答えを出す。だから、逃げられない。絶対に。
もしかして緋色の見本は、朱実殿下なのかな。そうかも。だって緋色は、朱実殿下みたいに笑って、朱実殿下みたいに答えを出すから。大切なものの為に、何かを迷わず切り捨てる所は似てるのかもしれない。
「お、恐れながら、も、申し上げ、申し上げます」
震えながら、安次嶺が声を上げた。ちゃんと言えたね。それができたら、話していいんだよ。
「言ってみろ」
「はっ。わ、わ、私は、見たままを述べ、述べた、述べたのみ、で、悪評など、では……」
「へえ。それで?」
「は、はいっ。ひ、広末は、指南書を開くことすらなく、碌々書きもしません。それは事実です!壱臣もです。書いた所で、あれの字は、のたくったような形で読めたものではない。やはり、それなりの学のある者以外に調理師免許を渡すものではないのです!で、殿下の政策は間違えておられる。免許は、名字なしに軽々しく渡してよいようなものではないのです!」
言い切った安次嶺は胸を張って、緋色を真っ直ぐ見ていた。緋色は、さっきの顔のまま。薄く笑って、黙っている。
はあ、というため息は八代から。はは、と笑うのは村次。
「教えてやれ、八代。知っているのだろう?」
「は、殿下」
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「存じて……おります。広末には、指南書などいらぬのです」
「は?」
何人か、は?って言った。
「あれは、あの天才は、見て食べれば作れるのです。なんなら、見本より美味しく……。指南書など、いらぬ。入荷した食材を見て、食べる者を思い浮かべて、思いついた品を作れる。そんな者に、詳しい指南書などいるものか」
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