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第八章 郷に入っては郷に従え
26 教えるのは上手じゃない 成人
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「馬鹿な……」
え?安次嶺がそれを言うの?
俺はびっくりだ。他の人なら、知らない人もいるかもしれない。でも安次嶺は、うちで何日か、仕事をしている広末と一緒にいたのに。
部屋は、しんとしたまま。
大きく息を呑む音が幾つもして、隣の席の人と顔を見合せていたりしたけど、他の人は口は開かず頑張ったみたいだった。
広末は何でも作れるって、皆、知らなかったのか。
この間、うちの結婚式の料理をここで作らせてもらった時に、何人か手伝ってくれたって聞いたんだけど、分かんなかったの?そういうもんなのかな?
うーん。でも壱臣は、うちに来てすぐに気付いて、広末さんは凄い、ってずっと言ってるけど。壱臣も、広末に教えてもらって手伝ってたら、すぐ作れるようになるから、おんなじくらいすごい。うちは皆すごいんだよ。その二人の弟子の村次も、あっという間に免許の試験に合格したしね!
ね?と村次を見ると、ちょっと首を傾げてから笑い返してくれた。
ねー。
「お前が、それを言うのか?……お前が?」
八代は、額に手を当てて、一度目をつぶる。それから、深呼吸してまた口を開く。
頭痛い?
生松呼んでこようか?
「研修に行っていたお前が、何故知らないんだ」
「そ、そんな人間、いる訳が……」
たぶん、安次嶺はもう、牢にお泊まりすることとお仕事はクビになることが決まってるから、口を閉じないんだと思う。他の人は、牢にお泊まりするのと、お仕事がクビになるのが嫌だから口を開かないんだ、きっと。なら、公里は?公里も、もう決まってるけど、口を閉じてしまったな。今のうちに、言いたいことがあれば言っておくのもいいと思う。緋色は今、最後まで聞いてくれる顔してるからさ。
「実際、いるんだ。だから広末に習うには、近くで見て、その手業を覚えるしかない。ああいう人種は、人にものを教えるのがあまり上手ではないからな。何故か分かるか?」
「いえ……」
「何故出来ないのかが分からないからだよ」
「…………は?」
八代は、安次嶺の目をじっと見ながら言った。
「できる人間には、何故それが出来ないかが分からない。出来るからだ。最初から、出来てしまうんだ」
「…………」
安次嶺は、ぽかんと口を開けて黙ってしまった。
「指南書も、頼めば書いてくれるさ。簡単な分量と簡単な手順を書いてくれる。広末が作れる手順を。けれど、人はそれを見て作れないと言うんだ。何故だと思う?私たちは新しい料理を思いついた時、何度もやって手順を作り上げる。分量を変えてみたり、より分かりやすいように手順を変えたり、次に作る時に失敗しにくいように工夫をする。失敗しやすい手順があれば、そこに注意書きを書くかもしれない。けれど、すぐに出来てしまう人間にそんな注意書きがいるか?いらないだろう?どこが難しいかなんて分からないのさ。どこも難しくなかったから」
しん、と厨房は静かになった。
え?安次嶺がそれを言うの?
俺はびっくりだ。他の人なら、知らない人もいるかもしれない。でも安次嶺は、うちで何日か、仕事をしている広末と一緒にいたのに。
部屋は、しんとしたまま。
大きく息を呑む音が幾つもして、隣の席の人と顔を見合せていたりしたけど、他の人は口は開かず頑張ったみたいだった。
広末は何でも作れるって、皆、知らなかったのか。
この間、うちの結婚式の料理をここで作らせてもらった時に、何人か手伝ってくれたって聞いたんだけど、分かんなかったの?そういうもんなのかな?
うーん。でも壱臣は、うちに来てすぐに気付いて、広末さんは凄い、ってずっと言ってるけど。壱臣も、広末に教えてもらって手伝ってたら、すぐ作れるようになるから、おんなじくらいすごい。うちは皆すごいんだよ。その二人の弟子の村次も、あっという間に免許の試験に合格したしね!
ね?と村次を見ると、ちょっと首を傾げてから笑い返してくれた。
ねー。
「お前が、それを言うのか?……お前が?」
八代は、額に手を当てて、一度目をつぶる。それから、深呼吸してまた口を開く。
頭痛い?
生松呼んでこようか?
「研修に行っていたお前が、何故知らないんだ」
「そ、そんな人間、いる訳が……」
たぶん、安次嶺はもう、牢にお泊まりすることとお仕事はクビになることが決まってるから、口を閉じないんだと思う。他の人は、牢にお泊まりするのと、お仕事がクビになるのが嫌だから口を開かないんだ、きっと。なら、公里は?公里も、もう決まってるけど、口を閉じてしまったな。今のうちに、言いたいことがあれば言っておくのもいいと思う。緋色は今、最後まで聞いてくれる顔してるからさ。
「実際、いるんだ。だから広末に習うには、近くで見て、その手業を覚えるしかない。ああいう人種は、人にものを教えるのがあまり上手ではないからな。何故か分かるか?」
「いえ……」
「何故出来ないのかが分からないからだよ」
「…………は?」
八代は、安次嶺の目をじっと見ながら言った。
「できる人間には、何故それが出来ないかが分からない。出来るからだ。最初から、出来てしまうんだ」
「…………」
安次嶺は、ぽかんと口を開けて黙ってしまった。
「指南書も、頼めば書いてくれるさ。簡単な分量と簡単な手順を書いてくれる。広末が作れる手順を。けれど、人はそれを見て作れないと言うんだ。何故だと思う?私たちは新しい料理を思いついた時、何度もやって手順を作り上げる。分量を変えてみたり、より分かりやすいように手順を変えたり、次に作る時に失敗しにくいように工夫をする。失敗しやすい手順があれば、そこに注意書きを書くかもしれない。けれど、すぐに出来てしまう人間にそんな注意書きがいるか?いらないだろう?どこが難しいかなんて分からないのさ。どこも難しくなかったから」
しん、と厨房は静かになった。
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