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第八章 郷に入っては郷に従え
37 一ノ瀬は見た 2
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「今夜の献立なんだが、こちらの指南書の……」
うん?普通に打ち合わせが始まってしまったぞ。休憩は終わる時間なのか、話が弾んでしまったのか、よく分からないな。だがまあ、距離を取っていた若い二人も、そろそろと近付いて真剣な顔で話を聞いている。今日は早めの準備でいいのだろう。人手が少ないことでもあるし。
二番弟子はもう、楽しくて仕方ないって感じだな。あれは、離宮にそのまま置いておいても良かった。……いや、まあ、これ以上城の人材を手薄にするのは悪手だ。俺の楽しみ、離宮の食事は、今の体制だから俺たちみたいなのも共に食べさせてもらえるのであって、こうして広末さんをしょっちゅう貸し出されることになったら、食べられなくなるかもしれない。
城の厨房を守ることが、離宮の厨房を守ることに繋がる。よし。守ろう。全力で守ろう。
「料理長。広末に指南書はいらぬと言ったのは、つい先ほどの事だったはずだが?舌の根も乾かぬうちに指南書を見せながらの打ち合わせとは、片腹痛い」
右腕をさすりながら歩いていった公里志雄が、声を上げた。あれは排除したいから、暴力さえ振るわなければ止めないでおこう。味くらべで、茶色の皿と答えた者は排除してもよい、と緋色殿下は仰っていた。仰っていた、よな?あれは茶色と書いたので、排除して良いはずだ。見下していた弟が才を見せたものだから、誉れを与えたくなかった、といったところか。馬鹿なことをしたものだ。仮にも城の料理人という誉れを頂いておいて、あの違いが分からぬ者がいるわけが無い。すべて分かった上で、わざと茶色と書いたのだろう。
あの父親も、よく分からないな。息子が褒められ、認められるのだから家門の誉れだろうに、何故わざわざ上手く作った息子の品ではない側に投票するのか。厨房内での立場的な何かか?料理長への反発か?何にせよ、緋色殿下と成人さまの前でそれをするというのは、自滅行為としか思えないのだが。
そういえば、もう一人の公里、満男は、俺が引っ張って広末さんから離した兄には付いてこなかったので、自然と打ち合わせの方に加わっている。あれは茶色とは書いていなかった。弟の矢渡のことは認めたくないようだが、弟の作った品は認めたのか。それとも、弟の品が見本に近い品だとは露ほども思わなかったのか。
休憩室から出てきた中に、解雇の候補がもう一人いるってことだ。まあ、自然と淘汰されるのを待つか。積極的に排除しろとの命令はもらっていないし、護衛並びに監視任務を遂行するとしよう。
「見本がないのだから、とりあえず指南書を見せている。訳の分からぬ言いがかりをつけるな」
「はは。指南書のいらぬ天才が聞いて呆れる。結局は、指南書が無ければ作れぬという事ではないか」
「指南書無しでも、見本をくれりゃ何とかしてやるよ?けど今、見本を作ってる暇はねえだろ。一通り作ってたら間に合わねえし。とはいえ、今日のはまあ、どれも作れねえことはねえ」
「は?」
「見たこと、作ったことのある品に似てるもんが多い。ざっとした説明で大丈夫だよ。ああこれ、この品は朱実殿下にはちょっと甘いだろ?こういう時はどうしてる?分けて煮るのか?」
「え?」
戸惑う面々に気付くことなく、広末さんの言葉は続く。
「うちは、緋色殿下となるぼ……成人さまとで味も固さも食材の大きさも変えるから、完全に鍋を分けて調理するんだ。おんなじに見えるようにしてやると、なるぼ……成人さまが喜ぶんだよなあ。乙羽さまも、成人さまと同じ鍋だ。一条と七条のお子様方が食べに来てたら、子どもたちもそっちだな。口が小せえし、噛む力もまだまだだから、そうしてやる方がちゃんと噛んで食べるだろ?ま、つまり、そういう分け方の区分だけ教えてくれ。赤璃さまは、このまんまでいいと思うんだが。あ、俺、陛下と皇妃殿下のお好みを全然知らねえな。皇妃殿下はだし巻き玉子をお好みってことだから、多分薄めの味付けがお好みなんだろうし、産後の赤璃さまと二人、薄めの味付けの鍋にして、ちと軟らかく煮込むか?……と、すまん。ひと息に話しすぎたか」
何故、離宮の飯はあんなに旨いのか、分かった気がした。
うん?普通に打ち合わせが始まってしまったぞ。休憩は終わる時間なのか、話が弾んでしまったのか、よく分からないな。だがまあ、距離を取っていた若い二人も、そろそろと近付いて真剣な顔で話を聞いている。今日は早めの準備でいいのだろう。人手が少ないことでもあるし。
二番弟子はもう、楽しくて仕方ないって感じだな。あれは、離宮にそのまま置いておいても良かった。……いや、まあ、これ以上城の人材を手薄にするのは悪手だ。俺の楽しみ、離宮の食事は、今の体制だから俺たちみたいなのも共に食べさせてもらえるのであって、こうして広末さんをしょっちゅう貸し出されることになったら、食べられなくなるかもしれない。
城の厨房を守ることが、離宮の厨房を守ることに繋がる。よし。守ろう。全力で守ろう。
「料理長。広末に指南書はいらぬと言ったのは、つい先ほどの事だったはずだが?舌の根も乾かぬうちに指南書を見せながらの打ち合わせとは、片腹痛い」
右腕をさすりながら歩いていった公里志雄が、声を上げた。あれは排除したいから、暴力さえ振るわなければ止めないでおこう。味くらべで、茶色の皿と答えた者は排除してもよい、と緋色殿下は仰っていた。仰っていた、よな?あれは茶色と書いたので、排除して良いはずだ。見下していた弟が才を見せたものだから、誉れを与えたくなかった、といったところか。馬鹿なことをしたものだ。仮にも城の料理人という誉れを頂いておいて、あの違いが分からぬ者がいるわけが無い。すべて分かった上で、わざと茶色と書いたのだろう。
あの父親も、よく分からないな。息子が褒められ、認められるのだから家門の誉れだろうに、何故わざわざ上手く作った息子の品ではない側に投票するのか。厨房内での立場的な何かか?料理長への反発か?何にせよ、緋色殿下と成人さまの前でそれをするというのは、自滅行為としか思えないのだが。
そういえば、もう一人の公里、満男は、俺が引っ張って広末さんから離した兄には付いてこなかったので、自然と打ち合わせの方に加わっている。あれは茶色とは書いていなかった。弟の矢渡のことは認めたくないようだが、弟の作った品は認めたのか。それとも、弟の品が見本に近い品だとは露ほども思わなかったのか。
休憩室から出てきた中に、解雇の候補がもう一人いるってことだ。まあ、自然と淘汰されるのを待つか。積極的に排除しろとの命令はもらっていないし、護衛並びに監視任務を遂行するとしよう。
「見本がないのだから、とりあえず指南書を見せている。訳の分からぬ言いがかりをつけるな」
「はは。指南書のいらぬ天才が聞いて呆れる。結局は、指南書が無ければ作れぬという事ではないか」
「指南書無しでも、見本をくれりゃ何とかしてやるよ?けど今、見本を作ってる暇はねえだろ。一通り作ってたら間に合わねえし。とはいえ、今日のはまあ、どれも作れねえことはねえ」
「は?」
「見たこと、作ったことのある品に似てるもんが多い。ざっとした説明で大丈夫だよ。ああこれ、この品は朱実殿下にはちょっと甘いだろ?こういう時はどうしてる?分けて煮るのか?」
「え?」
戸惑う面々に気付くことなく、広末さんの言葉は続く。
「うちは、緋色殿下となるぼ……成人さまとで味も固さも食材の大きさも変えるから、完全に鍋を分けて調理するんだ。おんなじに見えるようにしてやると、なるぼ……成人さまが喜ぶんだよなあ。乙羽さまも、成人さまと同じ鍋だ。一条と七条のお子様方が食べに来てたら、子どもたちもそっちだな。口が小せえし、噛む力もまだまだだから、そうしてやる方がちゃんと噛んで食べるだろ?ま、つまり、そういう分け方の区分だけ教えてくれ。赤璃さまは、このまんまでいいと思うんだが。あ、俺、陛下と皇妃殿下のお好みを全然知らねえな。皇妃殿下はだし巻き玉子をお好みってことだから、多分薄めの味付けがお好みなんだろうし、産後の赤璃さまと二人、薄めの味付けの鍋にして、ちと軟らかく煮込むか?……と、すまん。ひと息に話しすぎたか」
何故、離宮の飯はあんなに旨いのか、分かった気がした。
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