【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
913 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え

37 一ノ瀬は見た 2

しおりを挟む
「今夜の献立なんだが、こちらの指南書の……」

 うん?普通に打ち合わせが始まってしまったぞ。休憩は終わる時間なのか、話が弾んでしまったのか、よく分からないな。だがまあ、距離を取っていた若い二人も、そろそろと近付いて真剣な顔で話を聞いている。今日は早めの準備でいいのだろう。人手が少ないことでもあるし。
 二番弟子はもう、楽しくて仕方ないって感じだな。あれは、離宮にそのまま置いておいても良かった。……いや、まあ、これ以上城の人材を手薄にするのは悪手だ。俺の楽しみ、離宮の食事は、今の体制だから俺たちみたいなのも共に食べさせてもらえるのであって、こうして広末ひろすえさんをしょっちゅう貸し出されることになったら、食べられなくなるかもしれない。
 城の厨房を守ることが、離宮の厨房を守ることに繋がる。よし。守ろう。全力で守ろう。

「料理長。広末ひろすえに指南書はいらぬと言ったのは、つい先ほどの事だったはずだが?舌の根も乾かぬうちに指南書を見せながらの打ち合わせとは、片腹痛い」

 右腕をさすりながら歩いていった公里くり志雄しおが、声を上げた。あれは排除したいから、暴力さえ振るわなければ止めないでおこう。味くらべで、茶色の皿と答えた者は排除してもよい、と緋色ひいろ殿下は仰っていた。仰っていた、よな?あれは茶色と書いたので、排除して良いはずだ。見下していた弟が才を見せたものだから、誉れを与えたくなかった、といったところか。馬鹿なことをしたものだ。仮にも城の料理人という誉れを頂いておいて、あの違いが分からぬ者がいるわけが無い。すべて分かった上で、わざと茶色と書いたのだろう。
 あの父親も、よく分からないな。息子が褒められ、認められるのだから家門の誉れだろうに、何故わざわざ上手く作った息子の品ではない側に投票するのか。厨房内での立場的な何かか?料理長への反発か?何にせよ、緋色ひいろ殿下と成人なるひとさまの前でそれをするというのは、自滅行為としか思えないのだが。
 そういえば、もう一人の公里くり満男みつおは、俺が引っ張って広末ひろすえさんから離した兄には付いてこなかったので、自然と打ち合わせの方に加わっている。あれは茶色とは書いていなかった。弟の矢渡やとのことは認めたくないようだが、弟の作った品は認めたのか。それとも、弟の品が見本に近い品だとは露ほども思わなかったのか。
 休憩室から出てきた中に、解雇の候補がもう一人いるってことだ。まあ、自然と淘汰されるのを待つか。積極的に排除しろとの命令はもらっていないし、護衛並びに監視任務を遂行するとしよう。

「見本がないのだから、とりあえず指南書を見せている。訳の分からぬ言いがかりをつけるな」
「はは。指南書のいらぬ天才が聞いて呆れる。結局は、指南書が無ければ作れぬという事ではないか」
「指南書無しでも、見本をくれりゃ何とかしてやるよ?けど今、見本を作ってる暇はねえだろ。一通り作ってたら間に合わねえし。とはいえ、今日のはまあ、どれも作れねえことはねえ」
「は?」
「見たこと、作ったことのある品に似てるもんが多い。ざっとした説明で大丈夫だよ。ああこれ、この品は朱実あけみ殿下にはちょっと甘いだろ?こういう時はどうしてる?分けて煮るのか?」
「え?」

 戸惑う面々に気付くことなく、広末ひろすえさんの言葉は続く。

「うちは、緋色ひいろ殿下となるぼ……成人なるひとさまとで味も固さも食材の大きさも変えるから、完全に鍋を分けて調理するんだ。おんなじに見えるようにしてやると、なるぼ……成人なるひとさまが喜ぶんだよなあ。乙羽おとわさまも、成人なるひとさまと同じ鍋だ。一条と七条のお子様方が食べに来てたら、子どもたちもそっちだな。口が小せえし、噛む力もまだまだだから、そうしてやる方がちゃんと噛んで食べるだろ?ま、つまり、そういう分け方の区分だけ教えてくれ。赤璃あかりさまは、このまんまでいいと思うんだが。あ、俺、陛下と皇妃殿下のお好みを全然知らねえな。皇妃殿下はだし巻き玉子をお好みってことだから、多分薄めの味付けがお好みなんだろうし、産後の赤璃あかりさまと二人、薄めの味付けの鍋にして、ちと軟らかく煮込むか?……と、すまん。ひと息に話しすぎたか」

 何故、離宮うちの飯はあんなに旨いのか、分かった気がした。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...