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第八章 郷に入っては郷に従え
61 何となく通じるもの 九鬼城の料理長
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「すんません、錫ヶ瀬さま。一ノ瀬さまも。お客さんにこんなこと」
「いえいえ。皮剥きくらいお手のもんです。使える手は使ってください、料理長さん。それと、俺のことは広末と。俺は、もともと名字無しの平民で、名字で呼ばれ慣れてなくて。さま、なんて敬称もいらねえですよ」
「あ、俺も名前でお願いします。呼び捨てで構わないです。一ノ瀬は今回、結構たくさん来てますので」
……広末さんのどこまでも腰の低い様子に、殿様や若様があんだけ失礼のないように、と通達しとった緋色殿下のお連れさまであることを忘れそうになってしまう。あかんあかん。村次さんも、包丁を握ったらすっかり若い料理人やしな。さっきまでの威圧感、どこいった?
頭を振って、油断せんように、と気合いを入れる。城の料理人として、礼儀をしっかりせなあかん。城の料理人歴は浅いけど、九鬼の屋敷で仕えとったんやから、その辺りは一応仕込まれとる。
お家騒動があった。九鬼城の厨房で仕えとった料理人は、ほとんど解雇された。あれは、よその料理人やから、と殿様は言うてはった。いっつも、うちでご飯食べてはったもんな。ここのご飯は美味しい、といつも言うてくれてた。安心や、とも。家で、安心なご飯を食べられんとはどういうことや、と心配しながら、美味しいと言うてくれはるのを嬉しく感じとった。
九鬼弐藤さまの屋敷に仕えとったうちらが九鬼城の厨房に移ってから、まだ何ほども経っとらん。伝統も何も、ちゃんと分かっとらんのかもしれん。けど、九鬼城に移った際に、いつも通りでええ、気負わんでええ、と言うてくれはった若様が、今回は頑張ってくれ、とわざわざ言いに来てくれはったんや。張り切らんわけにいかんやろ。若様と姫様の晴れ舞台、絶対に成功させてみせる。
それにしても、広末さん……は名字無しの平民?それが、皇位継承順位三位、緋色殿下の専属?一体何がどうなってそうなったんや?うちより、大変なことになっとるな……。うん、お互い、色々あったな。
何となく通じるものを感じて顔を見ながら、ありがとうございます、と礼を述べる。
「うちのことも、棟太郎とお呼びください。皮剥きの手伝い、ほんまに助かりました」
「料理長。見てください、広末さんの剥いたこの皮の薄さ。ほんで、めっちゃ速いんです。すごいんです」
「村次さん、この若さでもう、免許持ちやそうですよ。ほんま、すごい!」
うちと広末さんの話が一段落ついたとみて、見習いたちが待ちかねたと声を上げる。
うんうん。そうかそうか。いや、すごいな。皮を剥いただけで、こんなことになっとんか。
「そ、そうか。良い勉強をさせてもろたな。よう手業を見せてもらうんやで」
「はい。けど、もう今日の分が終わりました」
「はあ?」
はやい、の次元が違たわ……。
「いえいえ。皮剥きくらいお手のもんです。使える手は使ってください、料理長さん。それと、俺のことは広末と。俺は、もともと名字無しの平民で、名字で呼ばれ慣れてなくて。さま、なんて敬称もいらねえですよ」
「あ、俺も名前でお願いします。呼び捨てで構わないです。一ノ瀬は今回、結構たくさん来てますので」
……広末さんのどこまでも腰の低い様子に、殿様や若様があんだけ失礼のないように、と通達しとった緋色殿下のお連れさまであることを忘れそうになってしまう。あかんあかん。村次さんも、包丁を握ったらすっかり若い料理人やしな。さっきまでの威圧感、どこいった?
頭を振って、油断せんように、と気合いを入れる。城の料理人として、礼儀をしっかりせなあかん。城の料理人歴は浅いけど、九鬼の屋敷で仕えとったんやから、その辺りは一応仕込まれとる。
お家騒動があった。九鬼城の厨房で仕えとった料理人は、ほとんど解雇された。あれは、よその料理人やから、と殿様は言うてはった。いっつも、うちでご飯食べてはったもんな。ここのご飯は美味しい、といつも言うてくれてた。安心や、とも。家で、安心なご飯を食べられんとはどういうことや、と心配しながら、美味しいと言うてくれはるのを嬉しく感じとった。
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それにしても、広末さん……は名字無しの平民?それが、皇位継承順位三位、緋色殿下の専属?一体何がどうなってそうなったんや?うちより、大変なことになっとるな……。うん、お互い、色々あったな。
何となく通じるものを感じて顔を見ながら、ありがとうございます、と礼を述べる。
「うちのことも、棟太郎とお呼びください。皮剥きの手伝い、ほんまに助かりました」
「料理長。見てください、広末さんの剥いたこの皮の薄さ。ほんで、めっちゃ速いんです。すごいんです」
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うんうん。そうかそうか。いや、すごいな。皮を剥いただけで、こんなことになっとんか。
「そ、そうか。良い勉強をさせてもろたな。よう手業を見せてもらうんやで」
「はい。けど、もう今日の分が終わりました」
「はあ?」
はやい、の次元が違たわ……。
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