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第八章 郷に入っては郷に従え
81 持つ者の務め 祈里
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「ほ、ほ、ほな、この衣装をまた着付けて戻るいう訳にはいかん、いうことですか」
「え?あ、あー。まあ、そういう事になるんか」
弐角さまの軽いお言葉に、がっくりと脱力する。
なるんですよ!緋色殿下が言ったのなら、絶対に、何か違うきちんとした姿で戻らなくては駄目なんです。成人さまなら、最悪、結婚式の仕来りとかそういうことを知らなかったから、花嫁を楽にして差し上げようとして思いついたことを言ったんだっていうことにすればいいのかもしれないけれど……。いや、そんなのは駄目だ。成人さまの優しい心遣いを、無かったことにする訳にいかない。そんなの、私が嫌だもの。
きゅ、と口を引き結んでいると、城の使用人が一人近付いてきた。
私に?
「祈里さん。緋色殿下からご伝言です。金は出してやる、と」
驚いて、ぱちぱちと瞬きしていると、その女中さんはにこりと笑った。ん?あれ?鼓与さん?
分かってみると、何故すぐに鼓与さんだと分からなかったのかが分からない。共に殿下方のお供をしてきた鼓与さんだった。昨日は、私について衣装部屋へ来てくれていた。殿下方の衣装の手入れなどを手伝ってくれた。着物が違うだけで、こんなに……。いや、髪や化粧も、いかにも九鬼のお城の使用人っぽくなっている。すごい。こうして紛れられたら、元からこのお城で働いていた人かと思ってしまう。
「お金……ですか」
「はい」
「あ!」
思わず大きな声が出て、部屋中の方の視線を集めてしまった。
「何かええこと思いつきましたか?」
「え、あ、あの、昨日の、織り物の着物……」
どうかこのめでたい席で、姫様に着て頂くことはできませんやろか、と一枚の着物が届いていた。少し前に離縁された壱鷹さまの奥方様が定期的に購入されていらっしゃったという、大層上品な織り物を使用した着物は、あまりに高額なために今では買い手もなく、技術は廃れていくばかりなのだと言っていた。
「もちろん、この着物は、姫様のことを頭に置いて作成致しました。姫様のためにと作ったんです。奥方様向けに作成した着物は、お蔵入りになっとります。その負債もあってうちはもう、首が回りません。どうか、どうか、ご一考頂ければ、と」
工房主は、そう言って何度も頭を下げていたが、ごめんね、と衣装部長は頭を下げ返したのだ。
「うちは、ほんまに貧乏で」
衣装部屋の方々も皆、元々お城勤めではないらしい。弐角さまが暮らしていた、壱鷹さまの弟君の屋敷から共に移って来られた方々だから、とにかく節約上手だ。お城に移ったからといってお金が増えた訳やないと、基本的には今まで通りの品を使っていらっしゃるらしい。上等な品を売りにくる商人たちは皆、肩を落として帰っていくことになるのだと、衣装部屋の方々は笑いながら言っていたけれど。
お城の人が節約ばかりでは、よくないこともある。現に、技術が一つ廃れかけている。守れる者が守った方がいい事はあるはず。涼乃絵さまが言っていた。使うべき時に使うのが、持つ者の務めよ、と。
あの着物を、しっかりと着込むのではなく、白い着物の上の羽織りとして使えば……。上品で華やかで、白無垢より軽いのではないだろうか。角隠しはそのままにすれば、花嫁であることに変わりはない。
あの華やかな着物が、誰か裕福な領地の方に気に入られれば。または、披露宴の途中で色を変える、というのが気に入られれば。
あの工房の生き残る道が見えるかもしれない。
「え?あ、あー。まあ、そういう事になるんか」
弐角さまの軽いお言葉に、がっくりと脱力する。
なるんですよ!緋色殿下が言ったのなら、絶対に、何か違うきちんとした姿で戻らなくては駄目なんです。成人さまなら、最悪、結婚式の仕来りとかそういうことを知らなかったから、花嫁を楽にして差し上げようとして思いついたことを言ったんだっていうことにすればいいのかもしれないけれど……。いや、そんなのは駄目だ。成人さまの優しい心遣いを、無かったことにする訳にいかない。そんなの、私が嫌だもの。
きゅ、と口を引き結んでいると、城の使用人が一人近付いてきた。
私に?
「祈里さん。緋色殿下からご伝言です。金は出してやる、と」
驚いて、ぱちぱちと瞬きしていると、その女中さんはにこりと笑った。ん?あれ?鼓与さん?
分かってみると、何故すぐに鼓与さんだと分からなかったのかが分からない。共に殿下方のお供をしてきた鼓与さんだった。昨日は、私について衣装部屋へ来てくれていた。殿下方の衣装の手入れなどを手伝ってくれた。着物が違うだけで、こんなに……。いや、髪や化粧も、いかにも九鬼のお城の使用人っぽくなっている。すごい。こうして紛れられたら、元からこのお城で働いていた人かと思ってしまう。
「お金……ですか」
「はい」
「あ!」
思わず大きな声が出て、部屋中の方の視線を集めてしまった。
「何かええこと思いつきましたか?」
「え、あ、あの、昨日の、織り物の着物……」
どうかこのめでたい席で、姫様に着て頂くことはできませんやろか、と一枚の着物が届いていた。少し前に離縁された壱鷹さまの奥方様が定期的に購入されていらっしゃったという、大層上品な織り物を使用した着物は、あまりに高額なために今では買い手もなく、技術は廃れていくばかりなのだと言っていた。
「もちろん、この着物は、姫様のことを頭に置いて作成致しました。姫様のためにと作ったんです。奥方様向けに作成した着物は、お蔵入りになっとります。その負債もあってうちはもう、首が回りません。どうか、どうか、ご一考頂ければ、と」
工房主は、そう言って何度も頭を下げていたが、ごめんね、と衣装部長は頭を下げ返したのだ。
「うちは、ほんまに貧乏で」
衣装部屋の方々も皆、元々お城勤めではないらしい。弐角さまが暮らしていた、壱鷹さまの弟君の屋敷から共に移って来られた方々だから、とにかく節約上手だ。お城に移ったからといってお金が増えた訳やないと、基本的には今まで通りの品を使っていらっしゃるらしい。上等な品を売りにくる商人たちは皆、肩を落として帰っていくことになるのだと、衣装部屋の方々は笑いながら言っていたけれど。
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あの着物を、しっかりと着込むのではなく、白い着物の上の羽織りとして使えば……。上品で華やかで、白無垢より軽いのではないだろうか。角隠しはそのままにすれば、花嫁であることに変わりはない。
あの華やかな着物が、誰か裕福な領地の方に気に入られれば。または、披露宴の途中で色を変える、というのが気に入られれば。
あの工房の生き残る道が見えるかもしれない。
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