【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

100 強い人、怖い人、速い人、可愛い人  鶴丸

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「ちょっと分かってきたかも」

 力丸りきまるの手にした剣が、くるりくるりと滑らかに動き始める。

「俺もー」

 成人なるひと殿下の手の軽い剣も、くるりくるりと回り始めた。
 ……うん?二人とも早いな?幾ら刃が潰してあるとはいえ、剣やで。そんなすぐにぶんぶん振り回すんは怖いとか、そういう気持ちは……。あ、無いか。うん、そうか。そやな。
 そんな気はしてた。

「すごいな。力丸りきまるはできそうやったけど、成人なるひと殿下は意外や」

 汗を拭って喉を潤した奥さんが言う。妊娠出産でなまったってぼやいとったけど、衰えは見えんかったで。流石やな!

「そやな。成人なるひと殿下、強くはないけど、何か怖いな。強くはないんやけど」

 重たい剣を手にしてよろけてはったし、力はない。少し速く動けはるんやとしても、多分持久力もあらへん。昼寝してたって言うてはったから、宴会に参加しただけで疲れるくらい体力が無いんやと思う。そんな風に見える。細うてか弱い。でも、何やろなこれ。この首の後ろがちりちりする感じ。訪ねてきはった時の気配も薄かったし、初手の勝負やったらもしかして……?いや、まさかな。うーん……。
 ま、ええか。

「怖い言うたら、さっきの。あれ」
「あれな!あれは怖いな。強いのとはやりたいけど、怖いのとはあんまりやりとうないな」

 奥さんが、水筒に残っている飲み物をゆらゆらと揺らしながら言ったことに、早口で反応してしまった。水分と手拭いを持ってきてくれたんはすごい助かったけど、渡してくれた男が、怖かった。
 かなり近寄るまで気付けんかった。ほんまに気付かんかった。悔しい。悔しいし怖い。

「こんな感じだったっけ?」
「こう?」
「あ、そうそう。そんな感じ」

 うん?いつの間にか二人とも、体の動きも何となく真似し始めとるん?
 えええ?力丸りきまるは、さっき初めて見たやろ?成人なるひと殿下も、披露宴の時と合わせても二回目やん。
 勘弁してや。こっちは、ほんの小さい子どもん時から練習を重ねてきとんやで。そんなすぐに再現されたら立つ瀬がないわ。
 いや、上手いもんやな……。

力丸りきまる。もう少し先端に意識を向けてみ?」
「先端?こうっすか?」
「そうそう。手も足も、とにかく優雅に」

 奥さんが助言すれば、力丸りきまるの動きはすぐに修正されて、指先、剣の先までぴしりと決まる。けど、あかんなあ。速い子なんやろな。キレが良すぎや。
 その点……。

成人なるひと殿下。めっちゃ綺麗や!上手です!」

 奥さんの言葉に、にぱっと笑う成人なるひと殿下が可愛らしい。
 ええ感じに力が抜けとって綺麗やで!

 
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