985 / 1,325
第八章 郷に入っては郷に従え
109 信頼 鶴丸
しおりを挟む
「おう。来たか」
少しだけかしこまった平服が浮いて見えるほど、そこはのんびりとした場やった。
「この度はお招きを頂き」
「ああ、はいはい」
「鶴丸、松吉、こっちだよー」
のんびり、いうか、その、なんと言うか、なんなら自分の城におる時より軽い感じというか……。領民と距離の近い、うちら田舎領主の家の者でさえ、もう少し気を使われとると思えるくらいの気安さで、おる者たちは寛いでいる。
「失礼致します」
包拳礼はいらん、とあんだけ言うてもろたし、どうも使用人っぽい者たちも一緒に席に着いとるとしか思えんので、頭だけ下げて招かれた場所へと腰を下ろす。大きな机が準備されて、人がてんでに座って話をしていた。成人殿下の隣に奥さんと二人で腰を下ろすと、机の周りにいた者たちが一斉に背筋を伸ばしてこちらを向いた。
「みんな。鶴丸と松吉だよ」
成人殿下のお言葉に一斉に頭を下げる様は、間違いなく洗練された所作で。
「あ。ええっと、西賀国の各務鶴丸と妻の松吉言います。よろしく」
「よろしくお見知りおきを」
身分的にどう振る舞えばええのか測れず、とりあえず丁寧に名乗って頭を下げた。成人殿下の紹介では名前しか分からんし、皆困るやろ?
「鶴丸、松吉。そう固くなるな。ここには俺の連れしかいない」
その緋色殿下の連れいうんが、どんな身分の誰か分からんから困っとるんじゃないですかー。
それでも、はいと頷いて頭を上げる。他の者も頭を上げて、にこにことこちらを見ていた。友好的やな。殿下方が招待したいうだけで、こんなに歓迎してもらえるんか。うん、信頼関係が凄い。なんかこれ、嬉しいな。
「鶴丸さま。腕は大丈夫ですか?」
力丸が、直接話しかけてくる。殿下方を気にする様子もなく、殿下方も力丸が勝手に声を上げたことを気にする様子もない。他の者も、それぞれ談笑し始めた。つまり、料理が届くまで力丸とうちが仲良う喋っとってもええってことか。
「全然平気やで。ほら、色止めにちゃんと冷やしとる」
袖をまくって湿布を見せる。青痣くらいできとってもなんて事はないんやけど、酷く色が変わっとると周りが心配するからな。
「なら良かったです。本当にすみませんでした」
「いいや。本気でやり合えて嬉しかったで」
「またやりましょう」
「約束や」
「あ、ええな。力丸、今度こそうちともやろな」
「はい、約束です。松吉さま」
ああそう。そうか。田舎の小国のうちの家臣たちでも、領主一家に食事に招かれたら緊張しとる様子が見られるのに、ここには全くそれが感じられない。これはまるで、家族とおる時のような。
ええな、これ。
「松吉、ごめんね」
「え?」
「広末、アイスクリーム、こっそり作れなかったって」
「へ?」
いやいや。皇城の晩餐でしか食べられん幻のデザート、よその厨房で作ったらあかんやろ。成人殿下の住んでるおうちとやらで出すんも、ぎりぎりあかんような気がするんやけど?
「やっぱりおうちに来てくれる?」
「それは、はい。喜んで!」
奥さんの返事を聞きながら、自分も大きく頷く。
こんな食卓への招待なら、いつでも大歓迎や。
少しだけかしこまった平服が浮いて見えるほど、そこはのんびりとした場やった。
「この度はお招きを頂き」
「ああ、はいはい」
「鶴丸、松吉、こっちだよー」
のんびり、いうか、その、なんと言うか、なんなら自分の城におる時より軽い感じというか……。領民と距離の近い、うちら田舎領主の家の者でさえ、もう少し気を使われとると思えるくらいの気安さで、おる者たちは寛いでいる。
「失礼致します」
包拳礼はいらん、とあんだけ言うてもろたし、どうも使用人っぽい者たちも一緒に席に着いとるとしか思えんので、頭だけ下げて招かれた場所へと腰を下ろす。大きな机が準備されて、人がてんでに座って話をしていた。成人殿下の隣に奥さんと二人で腰を下ろすと、机の周りにいた者たちが一斉に背筋を伸ばしてこちらを向いた。
「みんな。鶴丸と松吉だよ」
成人殿下のお言葉に一斉に頭を下げる様は、間違いなく洗練された所作で。
「あ。ええっと、西賀国の各務鶴丸と妻の松吉言います。よろしく」
「よろしくお見知りおきを」
身分的にどう振る舞えばええのか測れず、とりあえず丁寧に名乗って頭を下げた。成人殿下の紹介では名前しか分からんし、皆困るやろ?
「鶴丸、松吉。そう固くなるな。ここには俺の連れしかいない」
その緋色殿下の連れいうんが、どんな身分の誰か分からんから困っとるんじゃないですかー。
それでも、はいと頷いて頭を上げる。他の者も頭を上げて、にこにことこちらを見ていた。友好的やな。殿下方が招待したいうだけで、こんなに歓迎してもらえるんか。うん、信頼関係が凄い。なんかこれ、嬉しいな。
「鶴丸さま。腕は大丈夫ですか?」
力丸が、直接話しかけてくる。殿下方を気にする様子もなく、殿下方も力丸が勝手に声を上げたことを気にする様子もない。他の者も、それぞれ談笑し始めた。つまり、料理が届くまで力丸とうちが仲良う喋っとってもええってことか。
「全然平気やで。ほら、色止めにちゃんと冷やしとる」
袖をまくって湿布を見せる。青痣くらいできとってもなんて事はないんやけど、酷く色が変わっとると周りが心配するからな。
「なら良かったです。本当にすみませんでした」
「いいや。本気でやり合えて嬉しかったで」
「またやりましょう」
「約束や」
「あ、ええな。力丸、今度こそうちともやろな」
「はい、約束です。松吉さま」
ああそう。そうか。田舎の小国のうちの家臣たちでも、領主一家に食事に招かれたら緊張しとる様子が見られるのに、ここには全くそれが感じられない。これはまるで、家族とおる時のような。
ええな、これ。
「松吉、ごめんね」
「え?」
「広末、アイスクリーム、こっそり作れなかったって」
「へ?」
いやいや。皇城の晩餐でしか食べられん幻のデザート、よその厨房で作ったらあかんやろ。成人殿下の住んでるおうちとやらで出すんも、ぎりぎりあかんような気がするんやけど?
「やっぱりおうちに来てくれる?」
「それは、はい。喜んで!」
奥さんの返事を聞きながら、自分も大きく頷く。
こんな食卓への招待なら、いつでも大歓迎や。
1,346
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる