【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

109 信頼  鶴丸

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「おう。来たか」

 少しだけかしこまった平服が浮いて見えるほど、そこはのんびりとした場やった。

「この度はお招きを頂き」
「ああ、はいはい」
鶴丸つるまる松吉まつきち、こっちだよー」

 のんびり、いうか、その、なんと言うか、なんなら自分の城におる時より軽い感じというか……。領民と距離の近い、うちら田舎領主の家の者でさえ、もう少し気を使われとると思えるくらいの気安さで、おる者たちは寛いでいる。

「失礼致します」

 包拳礼はいらん、とあんだけ言うてもろたし、どうも使用人っぽい者たちも一緒に席に着いとるとしか思えんので、頭だけ下げて招かれた場所へと腰を下ろす。大きな机が準備されて、人がてんでに座って話をしていた。成人なるひと殿下の隣に奥さんと二人で腰を下ろすと、机の周りにいた者たちが一斉に背筋を伸ばしてこちらを向いた。

「みんな。鶴丸つるまる松吉まつきちだよ」

 成人なるひと殿下のお言葉に一斉に頭を下げる様は、間違いなく洗練された所作で。

「あ。ええっと、西賀さいか国の各務かがみ鶴丸つるまると妻の松吉まつきち言います。よろしく」
「よろしくお見知りおきを」

 身分的にどう振る舞えばええのか測れず、とりあえず丁寧に名乗って頭を下げた。成人なるひと殿下の紹介では名前しか分からんし、皆困るやろ?

鶴丸つるまる松吉まつきち。そう固くなるな。ここには俺の連れしかいない」

 その緋色ひいろ殿下の連れいうんが、どんな身分の誰か分からんから困っとるんじゃないですかー。
 それでも、はいと頷いて頭を上げる。他の者も頭を上げて、にこにことこちらを見ていた。友好的やな。殿下方が招待したいうだけで、こんなに歓迎してもらえるんか。うん、信頼関係が凄い。なんかこれ、嬉しいな。

鶴丸つるまるさま。腕は大丈夫ですか?」

 力丸りきまるが、直接話しかけてくる。殿下方を気にする様子もなく、殿下方も力丸りきまるが勝手に声を上げたことを気にする様子もない。他の者も、それぞれ談笑し始めた。つまり、料理が届くまで力丸りきまるとうちが仲良う喋っとってもええってことか。

「全然平気やで。ほら、色止めにちゃんと冷やしとる」

 袖をまくって湿布を見せる。青痣くらいできとってもなんて事はないんやけど、酷く色が変わっとると周りが心配するからな。

「なら良かったです。本当にすみませんでした」
「いいや。本気でやり合えて嬉しかったで」
「またやりましょう」
「約束や」
「あ、ええな。力丸りきまる、今度こそうちともやろな」
「はい、約束です。松吉まつきちさま」

 ああそう。そうか。田舎の小国のうちの家臣たちでも、領主一家に食事に招かれたら緊張しとる様子が見られるのに、ここには全くそれが感じられない。これはまるで、家族とおる時のような。
 ええな、これ。

松吉まつきち、ごめんね」
「え?」
広末ひろすえ、アイスクリーム、こっそり作れなかったって」
「へ?」

 いやいや。皇城の晩餐でしか食べられん幻のデザート、よその厨房で作ったらあかんやろ。成人なるひと殿下の住んでるおうちとやらで出すんも、ぎりぎりあかんような気がするんやけど?

「やっぱりおうちに来てくれる?」
「それは、はい。喜んで!」

 奥さんの返事を聞きながら、自分も大きく頷く。
 こんな食卓への招待なら、いつでも大歓迎や。
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